ウルトラガール
13.『白い恋人』

「瑠奈ちゃん。おはよう」
「あっ、菜穂ちゃん。おはよう」
白薔薇女学院高校の教室。菜穂が紙を片手に持って入ってきた。
「なあに、その紙?」
どこかで見たことがあると思ったら、私が送った年賀状だわ。
「当たったのよ、お年玉付き年賀はがき。それも1等!」
「へぇ、すごい。私なんか切手シートしか当たったことないわ」
「旅行券を貰おうと思うんだけど、瑠奈ちゃんも一緒に行かない?」
「え、いいの?」
「もちろんよ。だって瑠奈ちゃんが送ってくれたんですもの。私の田舎は北海道なの。もうすぐ札幌雪まつりだし、北海道を案内するわ」

***

『当機はまもなく新千歳空港に着陸します』
機内アナウンスが流れ、瑠奈は窓の外を眺めた。雪に覆われた大地が広がる。
初めての北海道。どんなところかな?瑠奈は期待に胸を膨らませた。
「瑠奈ちゃん。何見ているの?」
「時計台が見えないかなと思って」
「時計台?それは札幌よ。空港から電車で30分以上かかるもの、飛行機からは見えないわ」
「あ、そうなんだ」
「今日の予定はスキー場へ行って、明日の午後に札幌に行くわよ」

***

「やっと着いた、パウダースノーで絶好のコンディションだわ」菜穂が雪に触れると、さらさらと手からこぼれ落ちる。2人はゲレンデの最上部に立っていた。
「ところで瑠奈ちゃん。スキーは何回目?」
「初めてよ」
「初めてって、生まれて初めてってこと?」
「うん。生まれて初めて」
「それなら早く言ってよ。ここ上級者向けコースよ。リフトで下りて初心者コースで練習しましょう」
「下りのリフトに乗るなんて、そんな恥ずかしいことできないわよ。大丈夫だって、運動神経には自信あるし、こうやって滑ればいいんでしょ」
瑠奈は直滑降で下っていった。
「わぁ、スピードが出て気持ちいい!スキー最高!」
だが、瑠奈は重要なことを忘れていた。「どうやったら止まれるの!?」
後ろから追いかけた菜穂が叫んだ「ボーゲンにするのよ!」
「ボーゲンって何?うわぁああ、誰か止めて〜!!」瑠奈の悲鳴がゲレンデにこだまする。
そのときだった、瑠奈の体が横から支えられた。やがて減速していき、止まった。白のスキーウエアを着た若い男性が支えてくれていたのだ。
「大丈夫?」男性がゴーグルをはずしながら言った。
「は、はい。ありがとうございます」わっ、イケメンだわ。瑠奈の心がキュンとなった。
「それじゃ」と言い残して、男性は去っていく。
「瑠奈ちゃん。大丈夫?」菜穂が瑠奈の横に辿り着いた。
「かっこいい・・・何か恋の予感・・・」瑠奈は完全に浮かれていた。

***

「ジンギスカンに夕張メロン。あーおいしかった。」
「瑠奈ちゃんに喜んでもらえてよかった」
「ボーゲンも卒業できたし。明日からはガンガン滑ろうね」
ホテルのレストランで夕食を終えた2人は、部屋に帰るためロビーに向かっていた。
「あれ、昼間の人?」菜穂が指差した方向には、ゲレンデで瑠奈を助けてくれた男性がいた。
瑠奈は駆け出して「昼間は助けてくれてありがとうございました」と男性に礼を言った。
「ああ、昼間の直滑降の子。スキーは滑れるようになった?」
「はい。おかげさまで」
「そうだ、これからドライブでもどう?」
「え、いいんですか?お願いします」瑠奈はペコリと頭を下げた。

駐車場に止まっていたのは白のスポーツカーだ。
「どうぞ」男性が助手席のドアを開けてくれた。
「ありがとうございます」瑠奈はシートに座ると、男性が運転席に座りエンジンをかけた。
「シートベルト締めてね」男性に言われて、瑠奈はシートベルトをしっかりと締めると、車が低いエンジン音の唸りとともにゆっくりと動き出した。
「あのう、白色がお好きなのですね?」瑠奈が問いかけると、男性は「うん。君は何色が好き?」とたずねられた。
「私も白色が好きです!」やった。白い恋人。白い恋人たちだわ!
車は駐車場を抜けて道路を走り出した。ヘッドライトに照らし出されるのは白い雪道。周りは雪化粧した森だ。FMのカーラジオからはフランシス・レイの『白い恋人たち 』が流れている。
なんてロマンチックなの。夢のようだわ・・・。瑠奈は心のときめきを感じずにはいられなかった。
やがて車は坂道を登り終え、峠に差し掛かった。ゆっくりと止まり、ヘッドライトが消された。
「空を見てごらん」
男性に言われたとおりに、瑠奈はフロントガラスから空を見上げる。満天の星空だ。
「うわぁ・・・」言葉にもならない美しさだ。
「あっ、流れ星!」お願い事、お願い事しなくちゃ・・・あぁ・・・消えちゃった。
しばらく2人で星空を眺めていると、瑠奈の肩に男性の腕がまわされた。
「えっ!」
その腕が瑠奈の体を下に撫でていき、胸のところに止まった。
「ちょ、ちょっと止めてください」
胸を揉み始め、男性が瑠奈の上に抱きついてきた。逃げようとしてもシートベルトがしっかり締まっているので逃げるに逃げられない。
「あああ・・・」
もう片方の手がスカートの中に入ってきた。だめ・・・そんなところ触っちゃ・・・
しかし数多くのエロ怪獣と戦ってきた瑠奈だ。こんなことでは怯まない。
「うっ!」
瑠奈の顔面パンチが炸裂、男性は顔を両手で押さえてうずくまった。
その隙に急いでシートベルトをはずし、車外へと脱出した。

「はあ、はあ・・・」
来た道を戻るように駆け出した。どれくらい走っただろうか、ふと後ろを振り返ると車は森の陰に隠れて見えなくなっていた。吐く息が暗闇の中でもはっきりわかるくらい白く見えた。
「びっくりしたなあ・・・」
周りを見ると雪化粧した森。ホテルで食事をした帰りなので瑠奈はセーターにスカート姿だ。寒さが深々と伝わってくる。
「バス停はないかな?」周りを見渡したが、そんなものは見当たらない。
「タクシー来ないかな?」タクシーどころか車が1台も通らない。
「ど、どうしよう・・・」ここが東京都心とは違うことがようやくわかってきた。
寒さが痛さに変わってきた。空を見ると、あっ流れ星。「ホテルに無事帰れますように」今度は消える前にお願いできた。
歩いたらホテルまでどのくらいかかるだろう?ここまで30分ぐらいかかったから時速40キロとして、20キロ!だめだ、とても歩けない。その前に凍死してしまう。
携帯電話を取り出した。菜穂ちゃんにタクシーで迎えに来てもらおう。あっ、菜穂ちゃんのことすっかり忘れていた。怒るだろうなあ。
かじかむ手で電話しようとして大事なことを思い出した。「ここってどこなの?」
目標になるものは何もない。携帯電話のGPS地図を見ても山の中の1本道。
「110番にかけるしかないか・・・」迷子になりましたって言えば、携帯電話の基地局から居場所を探し出してくれるはず。
仕方がない警察に助けもらおうとして、110をダイヤルしようとしたとき、ひらめいた。
「巨大変身すればいいのよ!」
右手に携帯電話を持って、頭上にかざした。

***

雪化粧した山林が足元に広がり、それがどこまでも続く。靴の横幅しかない道路を滑らないようにゆっくりと歩いていく。
しばらくすると、遠くにホテルの灯りが見えてきた。
「ほっ・・・助かった・・・」
駐車場のところにやってきた。足元にはミニカーのように小さな車が並んでいる。
「さて、変身を解く前に飛んでいかないと」
瑠奈が飛び上がったときに、横からドンと押された。
「キャー!」瑠奈の悲鳴とともに体がゲレンデに押し付けられた。木々やリフトが体の下でバキバキと押し潰されるのがわかる。
「ちょっと何なの!」 瑠奈が上体を起こすと目の前には、さっきの男性がいた。
「なぜ逃げたんだ?」
「なぜって、エッチな事されたら誰だって逃げるわよ。って、なんであなたが巨大化しているのよ!」
「君だって巨大化しているじゃないか」
「わ、わたしはウルトラガールだからよ」
「じゃあ僕はウルトラボーイだ」
「『じゃあ』ってなによ。投げやりねぇ。それにウルトラボーイ?なによそれ、聞いたことないわ」
「今回から登場だ。よろしくな」
「よろしくなって・・・いきなり言われても・・・主人公は私1人でいいのに・・・」
「それよりも、せっかく出会えたんだ。お互いに一緒になろう」そう言ってウルトラボーイが瑠奈に抱きつこうとした。
しかし同じ手は瑠奈に通用しない。ひらりと男性をかわし背中を押し倒した。「このスケベ!」
男性がうつ伏せのままゲレンデにドカンと倒れこむと、その衝撃でゲレンデ一帯にひび割れが発生した。ひびが次第に拡大していき麓へ向かって押し流されていく。
「あっ雪崩!」瑠奈が麓の方へ目をやるとホテルの灯りが見える。あそこには菜穂ちゃんがいる!
瑠奈は麓へ駆け出すとホテルの前で横にスライディングし、全身で雪崩を受け止めた。
ゆっくり上体を起こすとホテルは無事だ。窓から菜穂ちゃんが心配そうに、こちらを見ている。
「はぁ・・・良かった」
雪を振り払って立ち上がり振り向くと、ゲレンデにうつ伏せに倒れていたウルトラボーイがゆっくりと立ち上がり、顔面に付着した雪を払いのけながら、こちらを見ている。
「もおお、何でこんなところで、こんなヤツの相手しなきゃならないのよ」
ここで対戦したらスキー場、いやホテルまで壊されてしまいかねない。そんなの嫌よ、こんな寒いところで、野宿なんて真っ平だわ。
瑠奈は飛び上がった「私はこっちよ。私が欲しいなら、ついてらっしゃい」
全速力で満天の星空に飛び上がった。でも、どこへ行けばいいのかわからない。初めての北海道。全く土地勘がなかった。
「とりあえず明るい方へ行ってみよう」
瑠奈の向かう先には街の夜景が輝いていた。

「うわっ・・・きれい・・・」
瑠奈の降り立った場所は大きな街の中、足元にはライトアップで光り輝く大きな雪像が並んでいた。見渡すと『さっぽろ雪まつり 大通会場』と看板がかかっていた。
「えっ、これが雪まつりなの。すごーい」
足元の観光客を踏み潰さないようにゆっくりと雪像を見て回る。
「大きな雪像。よくできてるわねえ」その大きな雪像を跨いで歩きながら見学していると、ビルの谷間の向こう側に、瑠奈が見たかった札幌のシンボルが目に入った。
「あった、時計台!」
こんなところにあるんだ。なんだ草原の中にぽつんと建っていると思っていたのに、ビルに囲まれて思ったより小さいわね。もっとも私が巨大変身しているって事もあるんだろうけど。
どの時だった、後ろからドスンと衝撃を受け、前のめりに倒れこんだ。瑠奈の胸でライトアップされた雪像が押しつぶされていく。
「痛ったい!何すんのよ!」
うつ伏せに倒れた瑠奈が振り向くと、そこにはウルトラボーイが立っていた。
「つかまえたウルトラガール。さあ一緒に心と体をひとつになろう」
ウルトラボーイが瑠奈の上に覆いかぶさってきた。
「ちょっと待て!い、いきなりひとつになろうって言われても・・・」
「周りを見てごらん。皆が僕たちのことを祝福しているよ」
そう言われて周りを見渡すと、観光客がカメラや携帯電話で私達のことを撮影している。中には私をバックに記念撮影している者までいる。
「勝手に撮らないでよ、見世物じゃないのよ!」瑠奈が傍らにある雪をつかんで投げると観光客は雪に埋もれてしまった。
「さあ、甘いキスを」ウルトラボーイの顔が近づいてくる。
「ちょっと待って!まだ心の準備ができてないし」
「そんなものは不要さ、さあ」
「ま、待ってよ」瑠奈が近づいてくるウルトラボーイの顔をおさえた。
「!?」瑠奈の手が変な触感を感じた。彼の顔が変だ。なんかズルッとずれた。え・・・もしかしてお面?そのまま一気にイケメンの顔をはがした。
「ギャー!!」
瑠奈の悲鳴が札幌の街に響き渡った。
イケメンの顔の下から出てきたのは、真っ黒い大きな目をした白い顔の宇宙人だ。瑠奈は宇宙人にパンチを食らわし、雪像を蹴散らして一目散に逃げた。

顔面パンチを食らった宇宙人は、顔を抑えながらゆっくりと立ち上がり周囲を見回した。「どこへ行ったウルトラガール」
「うわっ宇宙人がお面つけて、私を騙していたんだわ」ガクガク震えながら、巨大な体をビルにはさまれた路地に体を挟み込んで隠れていた。
足元の方『でっかいネエちゃん』とか『パンツ丸見え』とかの声がする。見てみると先ほどの雪まつり会場の観光客とは明らかに違う層の人たちが集まっていた。
ここはどこなの?周りを見渡すとカラオケや居酒屋、エッチな店とかが立ち並んでいる。標識には『すすきの』とあった。
「ちょっと、スカートの中のぞかないでよ」スカートでお尻を隠そうと思わず立ち上がった。
「見つけたぞウルトラガール!」
「あっ、見つかっちゃった!」
宇宙人に押し倒されて、瑠奈の背中でビルが一瞬に瓦礫と化した。そこに棒が振り落とされた。が、運動神経のいい瑠奈は真剣白刃取りで受け止めた。
それから棒は前後に動かされるだけで、一向に変化がない。何をやっているんだ?この宇宙人?
そう思っていると顔にビシャと変な液体がかかった。痛くもなんともないが、何なのこの白いネバネバした、変な臭いのする液体は?
「おおっ、手コキでいってしまった」
満足そうな宇宙人を見ると、その棒は宇宙人の股間から伸びていた。げっ、これって宇宙人の『お○んち○!』
伏字にしたいほど、乙女の女子高生が言うのもはばかられる言葉だ。
しかし周りの群衆はますますヒートアップしている。『おお顔射だ!』とか『グッドジョブ!』とかが聞こえる。
「やだぁ・・・もぉ・・・」瑠奈はポケットティッシュを取り出し白い液体を拭き取った。もお何でこんな目にあうのよ。
「ちょっと、何で私を追いかけるのよ。エッチなことばかりして、ウルトラヒロインとして調子狂うわ。目的は何なの?地球侵略?」
「私の目的は地球侵略ではない」
「じゃあ何よ」
「生殖活動だ」
「せ、生殖活動!何で私が。そんなの絶対嫌よ」
しかし場所が悪い。ここは北海道一の歓楽街『すすきの』なのだ。周りの観客は『いけ!』とか『脱がせろ』とか宇宙人に声援を送っている。あんた達、どっちの味方なのよ。
エッチな店の立ち並ぶ街で、エッチな群衆に囲まれ、生殖活動目的の宇宙人。ウルトラガール絶体絶命の大ピンチ。

「そうだ!」 瑠奈にアイデアがひらめいた。
私もエッチになればいいのよ!

「もお・・・乱暴する人は、き・ら・い(ハート)」瑠奈は思いっきり艶のある声でささやいた。
『おおー』と群集から怒涛の声が響く。
抜いたばかりの宇宙人の棒も再び元気を取り戻した。
「やだぁ、こんなに硬くなちゃって、エ・ッ・チ・なんだから」瑠奈の手が棒に触れると棒はますます硬くなっていく。
「私の方から入れて・あ・げ・る」瑠奈の人差し指が棒の先端をさする。
「私の方からって、それは 騎乗位ってことか」喜んで宇宙人は瑠奈と場所を交代した。
瑠奈は立ち上がり、ビンビンに、はちきれんばかりに硬くなった棒を股にあてがった。「さあ、ひとつになって気持ちよくなりましょ」
群衆からの注目の目線が瑠奈の股の一点に集まる。
「さあ、イク・・・・・・・・わけないだろ!!」
瑠奈は全体重を棒にかけると、ポキリと簡単に棒が折れた。
「ギャー!!」痛い、あまりのも痛い。男性諸君なら想像するだけで痛さがわかるだろう。宇宙人の悲鳴が札幌の街に響き渡った。
棒が急激に縮こまると同じくして、宇宙人の体も小さくなっていく。そして元の大きさに戻ったところで、怒りの瑠奈の足が振り落とされた。
ブッチと、足の裏に宇宙人がつぶれる感覚を感じた。

勝った、宇宙人に勝った。でも、いつもの勝利の気分には、なれなかった。
「はぁ・・・せっかくの初デートが・・・」瑠奈の頬を涙が伝っていく。
「なんで、なんで、こうなっちゃうのよ・・・」大粒の涙を残して、札幌の夜空に飛び上がった。

13.『白い恋人』
−終−

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