ウルトラガール
10.『霞ヶ関』

 不況が長く続いた日本に、この頃になると明らかな変化が生じた。あれだけ無駄な公共投資をしてきたのに一向に回復しなかった景気が回復しはじめたのだ。
 怪獣と謎のウルトラヒロインによって破壊されたのはこれまでに主なもので首都高速道路、JR山陽本線、明石海峡大橋、瀬戸大橋、関西空港、東京湾アクアライン。ビルや住宅、自動車においては数え切れない。それらを修復するために政府は大量の資金を投入したのだった。そのために公共投資を削られ、瀕死の状態だった建設業界を中心に活気付き、まさに列島改造ブーム、バブル期並みに工事が行われた。修復だから無駄な投資だと野党も追求できない。一方、個人住宅では1998年5月15日に成立した被災者支援法によって救われた。自然災害といえるかどうかわからないが第2条にはその他の異常な自然現象により生じる被害とあるので拡大解釈すれば当てはまらないこともない。政府はこことぞばかりに金をばらまき出した。法定内の基準額500万円を無視して全額補助しだしたのだ。もらえる方は助かるので、これも野党は追求できない。もっとも財政赤字なのでこれらの資金は赤字国債を大量発行という方法を取ったのだが、前任者の諸星ルナことルナ201-10Bが予想したように使う当てもない公共事業は全て中止された。農地整備や整備新幹線なんてもうだれも要求しない。
 潤ったのは建設業界だけではない。謎のウルトラヒロインことウルトラガールの関連商品がブームになったのだ。もっとも、顔はよく分からないものの巨大美少女というのだけは解かっているので、企業が勝手に商品をつくりだした。女の子向けにミニチュアビルのディスプレー付き着せ替えウルトラガール人形が売れ、子供たちの間ではウルトラガールごっこが流行った。怪獣役の男の子がウルトラガール役の女の子にやっつけられて最後には踏みつけられるという、未来のJGC会員を養成するような遊びがあちこちの校庭や公園で見られるようになった。もっとも卑猥な事はしないが・・・。成人向けでは・・・もういいですね。あとは想像にお任せします。
そんな世の中で不満だったのは
「まったく、なんで私には一円も入ってこないのよ!」
月里瑠奈、本人である。
 
***
 
「なによこれ!」
瑠奈はつり革をつかまりながら不機嫌な顔をしていた。
「瑠奈ちゃん何見てるの?」
横のつり革につかまっていた菜穂が言ってきた。
「え!な、何でも無いっ!!」
「何慌ててるの?あっこれね。なになに・・・うわっ瑠奈ちゃん、やらしい!」
「私こんな広告見てないわよ。あ、駅に着いたわ」
瑠奈が見ていたのは週刊誌の中ずり広告。そこには『特集!新作ウルトラガールAVの満足度』とあった。
 
2人が降りたのは、いつもの駅とは違って地下鉄茅場町駅。今日は校外学習で、現地集合現地解散となっている。瑠奈達にとっては見学の内容よりも解散後の道草の方が魅力で東京証券取引所コースを選んだようだ。
「ねえ菜穂ちゃん、あそこのお店にいきましょ」
銀座に近いだけの事でこのコースを選んだらしい。
 
駅を出て東京証券取引所前が集合場所だ。昔、立てこもり事件があったとかで金属探知器のゲートを通ってから見学となった。女子高生が銃火機を持って立てこもるとは思えないけど。
「わーっ、テレビで見たのと一緒!」
エスカレーターで2階に上がり、ガラス越しに立合場が眺められる見学通路にやってきた。このところの景気回復で説明してくれる人もほくほく顔である。一時は1万5千円を割った平均株価も、2万円台にまで回復した。
「これもみーんな、私のおかげよ」
瑠奈が思っていたかどうか知らないが、まさにウルトラガール様さまである。
 
 一通り説明を受けて、解散までの1時間。自由研究とか言って自分で色々と研究しなくちゃならないのだけど、ふぁ〜あ・・・退屈。株なんて全然興味無いし・・・。
やる事が無いので、ぼやーと立会場の方を見ていた。立会場といっても実際は誰もいない。1999年4月30日に立会場は廃止になって全てコンピュータ取引になったんだって、さっき説明の人が言ってた。ただそこには当時のままにブースとディスプレーが残されているだけだ。動いているのは壁に表示されている株価表示装置だけだ。そのガラ−ンとした立合場で目立つのは天井から『TOKYO STOCK EXCHANGE』と描かれた黒、白、赤の垂れ幕だけ。
菜穂ちゃんはというと説明の人に色々質問しているわ。財テクでも始める気なのかしら?あれ、あれれ他の人もみんな結構研究熱心だわ。株価が急落しても知らないわよーん。結局まじめにやってないのは私だけか。
「ふぁーあ・・・」
「ふぁーああああ・・・」
ん?誰なの。私の隣で私に合わせてあくびをしているのは!
「・・・・退屈っぅ・・・」
「うわっ、せ、先生!いつの間に・・・」
瑠奈の隣にいたのは今日の引率を勤めている担任の九川先生だった。
「月里さん。退屈そうねえ・・・」
「先生!そんなアクビなんかしてていいんですか?」
「だって!私、株なんか全然興味無いんだもの」
「そんな無責任な」
「生徒が安全にこの校外学習を終えるのが私の役目。これも仕事なんだから。それよりも何で月里さんは退屈そうにしているの?」
「私も先生と同じく興味無くって・・・なんかちんぷんかんぷんって感じ」
「じゃあ何でこのコース選んだの?」
「いえ、あ、その・・・」
「あっ、わかった!解散後にどこかへ行くつもりなんでしょう」
ぎっく
「当たりねぇ。まあいいわ、私もね終わったら急いで行くところがあるのよ」
なんだ先生。結構いい加減だなあ。
 九川法子先生。私のクラスの担任だ。初登場が第8話の後ろだったんで説明するの忘れてたけど、担当は理科。大学を卒業したばかりの若くて美しい先生だ。こう見ると結構いい加減そうだけど、未だに学生気分が抜けていないみたい。最も授業中は厳しいけどね。
「私、理数系なのは得意だけど、こう言う経済がどうのとか言うのはねえ・・・苦手なの。ねえ月里さん。解散まであと何分?」
「えーっと、あと20分です」
「20分!もう退屈で死にそう・・・」
先生と生徒の会話とは思えないような、そんな取り止めの無い事を話しながら時間をつぶしてた。そのときだった。
「きゃあ!」
「じ、地震!この揺れは直下型だわ。伏せて!」
突然ぐらっと揺れた。かなり大きい、それも縦揺れだ。一瞬にして照明が消え、目の前が真っ暗になった。
「み、みんな伏せるのよ!」
九川先生は生徒たちに必死に呼びかける。
「きゃああ!!」
あちこちから悲鳴が聞こえる。揺れはまだ続いた。
「はあ・・・・揺れ、おさまったみたい・・・あーっ、びっくりした。ずいぶん大きかったわね」
瑠奈はゆっくりと立ちあがって立会場の方を見た。暗くてよくわかんないけど窓から入る明かりと、非常用の電灯が何かを浮かび上がらせている。
「な、何だろう・・・」
薄暗い立会場の中央にさっきまで無かった何か巨大なものが、デーンとあった。
「う、うわぁあ!な、なにこれ!!」
「どうしたの?」
瑠奈の叫び声でみんなが集まってきた。
「こ、これ何?」
暗さに目が慣れてきてそこに見えたのは、広い立会場の真中に巨大な穴から身を這い出し、ブースをなぎ倒してデーンと佇んでいる体長10メートルぐらいの巨大な魚みたいだった。
「何でこんな所にクジラが?」
みな口々にそんな事を言っている。
 何なのコイツ?水族館でもないのに何でクジラがいるの?もしかしてクジラじゃなくって怪獣かもしれない。でも携帯電話は鳴らなかったし・・・あ!忘れてた。見学中に呼び出し音が鳴るといけないと思って電源を切っておいたんだった。とするともしかして怪獣かも?
「みんな大丈夫?ケガは無い?」
生徒達の安全を確認している先生のところへ瑠奈は行って聞いてみた。理科の先生なら何かわかるかもしれない。
「先生、これクジラですか?」
九川先生は立会場の方を見て答えた。
「これ?よく見えないからなんとも言えないけど。背鰭があるからクジラじゃないことは確かね。きゃあ!」
そのとき、さっきまで奥の方を見ていたクジラもどきが正面玄関の方にゆっくりと向きを変え始めた。細長い形をした立会場を胸鰭を中心にして廻るので尾鰭がブースをなぎ倒しながら壁をぶち壊していく。
「先生!」
壁の上部にある株価表示装置が尾鰭に当たって崩れ落ち、その上の見学者通路も崩れ落ちた。
「早く、早く避難して!ほら月里さんも!」
崩れていく通路を後ろに見ながら非常灯だけの薄暗い建物内を、九川先生は瑠奈の手を引いて駆け出した。
 
***
 
「はあはあはぁ・・・大丈夫?」
停電で止まったエスカレータを駆け下りて何とか無事に外に出られた。
「はあはぁ・・・私は大丈夫です」
「そう良かった。みんな無事?1、2、3・・・・みんないるね」
九川先生は引率した生徒数をかぞえて、ケガも無くそろっている事を確認すると、ホッとした様子だった。
「じゃあみんなはここで待っててね。私ちょっと学校に連絡してくるから・・・」
そう言うと九川先生は、そそくさと何処かへ行ってしまった。
どこ行ったんだろう?とにかくいいわ。私もどこかに隠れて変身して、あの怪獣をやっつけなきゃ。
瑠奈はみんなにわからないようにそおっと抜け出した。しかしどこで変身すればいいのかわからない。裏道に廻ったもののここじゃあ向かいのビルの窓から人が見てたらばれちゃうわね。うーん困ったわ。あれ?九川先生こんな所に。
見ると九川先生がさっきクジラもどきの怪獣が壊した、立会場の崩れた壁の辺りをうろうろして周りの様子をうかがっている。どうやら私が見ている事には気づいていないみたい。あれ、崩れた壁の隙間から建物の中に入っちゃった。おかしい?なんで学校に連絡するのにあんな所へ入って行くのかしら。怪しいわ。私もこうしているも怪しいけれど、これはウルトラヒロインだからよ。ん?待てよ、もしかして九川先生も八木先生みたいにウルトラヒロインなのかも・・・ま、まさかそんな事ないわよね。
でも気になって瑠奈も九川先生に続いて気付かれないように、その隙間から立会場に入っていった。
 
***

 中に入ると瓦礫の山だ。コンクリートやガラスの破片、なぎ倒されたブースとその上に載っていたディスプレーが散乱している。その向こうには薄暗い中に巨大な魚が身動きせずにじっとしている。その胸鰭辺りを九川先生がじっと覗き込んでいる。
何してんだろう?魚が動くまでじっと待っているのかしら。動き出したら変身してやっつけちゃうとか?
瑠奈はそおっと九川先生のそばに行って後ろから声を掛けた。
「先生!何してるんですか?」
「きゃぁぁぁぁぁーーーー!」
大きな悲鳴を上げてこっちを向いた。
「・・・・は、はあ・・・な、なあんだ月里さんか・・・あ、ああ・・・びっくりした」
「はあ・・・びっくりしたのはこっちの方です」
「ごめんなさいね。でも何で月里さん、こんな所にいるの?」
何でって先生がこんな所にいるのはウルトラヒロインじゃないかと思ったから。なんてそんな事は言えないから。
「いえ、あのう。学校に連絡するんでしたら私、携帯電話持っていますんで先生に貸してあげようと思って・・・」
瑠奈は携帯電話を九川先生の目の前に差し出した。
「何だそんな事。それなら心配ないわ。私も持っているから」
九川先生も携帯電話を取り出して瑠奈に見せた。このとき瑠奈はふと思った。この電話で変身するのかなと。
「それなら先生。何でこんな所にいるのですか?」
「それはね・・・この魚に興味があったからなの」
「この魚に?」
理科の先生だからこういうのに興味があるのはわかるけど・・・
「そう。実はね私、学者になりたかったの。大学の時の専攻は海洋生物学。子供のときから海と海の生物が大好きでね。だからこんな珍しいのが目の前に出てきたら、さっきから近くで見たくて仕方が無かったの」
「そうだったんですか」
「ごめんね。嘘ついちゃったりして。学生時代はよく学業と趣味を兼ねてスキューバダイビングをしていろんな魚を見てきたけど。こんなのはじめてよ。だから興奮しちゃって、つい・・・」
へぇ、そうだったんだ。じゃあウルトラヒロインでもなんでも無いんだ。あれ?ちょ、ちょっと待てよ、九川先生は海洋生物の学者になりたかったのよね。海と海の生物が大好きで、趣味はスキューバダイビング。行動的な性格だし・・・これってどこかで聞いた事ある設定だわ。も、もしかして・・・
瑠奈はそっと九川先生の手首を覗き見てみた。
「うそーっ!!」
あった、確かにあった。ブレスレットが両手首に・・・おまけに宝石のような物もついていた。
「どうしたの?月里さん。何が嘘なの?」
「えっ・・・いえ・・・ところで先生。この巨大魚はなんと言う名前ですか?」
「私が思うところだとハゼ科の魚みたいね。それも見たところの特徴からして・・・・・」
九川先生の説明は続いたが、瑠奈は聞いているどころではなかった。
九川先生があのウルトラヒロインなの?でもまだ言いきれないわ。残る確認事項はえっーと・・・男性経験?何よこれ。こんなこと聞けるわけないじゃない。それにしても基本設定でこんな事を載せる必要があるのかしら?
「・・・・・とみて間違い無いわね。ただしどうしてこんなに巨大化したかは、わからないのだけども。あれ月里さん、聞いてる?」
「えっ・・・は、はい・・・」
その時だった。目の前の巨大魚が動き出した。
「せ、先生。危ない!早く逃げましょ!」
今度は瑠奈が九川先生の手を引いて出口に向かった。瓦礫で歩きづらく、なかなか前に進まない。さらに巨大魚が以前にも増して暴れ出した。
「もう少し、もう少しで出口です」
しかし九川先生はハイヒールを履いていて瓦礫の上をうまく走れない。ガラスが散乱しているので脱ぐわけにも行かない。
「月里さん、私はいいから先に行って!」
そう言って九川先生は瑠奈の手を離した。
九川先生がウルトラヒロインだってことが確実なら、九川先生に怪獣退治は任せて、今日のところは楽しちゃおう。なんて思うのだけど確実でないのだからそんなことはできない。第一、3話連続で助けてもらったりでもしたらウルトラヒロインのメンツ丸つぶれだわ。
「そんな事できません!」
瑠奈がもう一度手を差し出すと
「いいから。あなたにもしもの事があったら・・・きゃあ!!」
目の前の九川先生が急にいなくなった。じゃなくって何かが上から覆い被さったのだ。これは・・・見るとさっきまで天井から垂れ下がっていったら『TOKYO STOCK EXCHANGE』と描かれた大きな垂れ幕が落ちてきて九川先生の上にかぶさったのだ。
「先生。今助けに行きますから・・・」
九川先生を幕の上から抱きついた。
「月里さん。私はいいから先逃げて!あれ、月里さん。な、何をするの?!キャー」
ここで九川法子は意識を失った。
 
***
 
「んー、ここはどこ?」
気がついて周りを見ると青い空と雲が見える。確か私・・・そうか、建物の下敷きになって死んじゃったのね。あーあ、天国に来ちゃったのか。あんな巨大魚なんて見に行かなきゃ良かったんだ。いまさら後悔してもしょうがないけど・・・そうだ私はともかく月里さんは無事だったかしら?そうだと良いんだけど。
「先生。大丈夫ですか?」
どこからか月里さんの声が聞こえる。あーっ月里さんも天国に来てしまったのね。教え子を道連れになんて・・・なんてこと、月里さんには謝っても謝りきれないわ。
「九川先生」
周りを見渡しても月里さんの姿は見えない。どこにいるのかしら?姿が全く見えないわよ。
「九川先生。こっちです」
九川法子は声のする方をゆっくりと向いた。
「えっ・・・なんで、なんで月里さん。こんなに・・・大きいの?」
見ると遥か上の方に巨大な顔が見える。それは間違いなく教え子の月里瑠奈の顔だった。そこからずっと下に視線を移すと・・・あ、私が載っているのは彼女の巨大な掌の上だ。これはもしかして・・・罰?きっとそうだわ。私のせいで月里さんを死なせてしまったのでその罰を受けるんだ。それで月里さんが大きくなってを私を好きなように罰するのかしら?
「先生。ケガは無いですか?」
別に死んじゃったのだからケガも何も無いけど一応うなずいた。
「良かった。それじゃあ下ろしますね」
下ろす?罰を下すってことかしら?
 九川法子は覚悟した。しかし変だ、なんだかエレベーターに乗って下っていく感じだ。これは地獄へ下りるってことかしら。仕方が無いわ、全て私が悪いのだからどんな罰で受けるわ。ふと両手首につけていたブレスレットを見つめる。ああ、死ぬ前にもう一度・・・
「九川先生。大丈夫ですか?」
「どこ行ってたんです?心配してました」
周りから声がする。これは月里さんじゃない生徒達の声だ。えっ!となると生徒達は地獄にいるの?
ブレスレットを見つめていた目線をあげると周りに生徒達がいて私を覗き込んでいる。
「あなた達。なんでこんな所に?」
「こんな所にって・・・先生がここで待ってなさいって」
生徒の中の一人、北嶋菜穂が答えた。
「待ってなさい?ってここは・・・」
周りを見渡すと東京証券取引所の前だ。
「あれ・・・私死んじゃったんじゃぁ」
「何言ってるんですか先生。助けてもらったんじゃないですか」
「助けてもらった?」
「そうですよ。ほら」
北嶋菜穂が指差した方を見ると、遥か上で微笑んで手を振っている巨大な月里瑠奈が聳え立っていた。
「先生。大丈夫?」
「は、はい」
瑠奈の問いに九川法子は何がなんだかわからず、そう答えるのがやっとだった。
「北嶋さん。これどういうことなの」
九川法子は傍にいる北嶋菜穂に聞き返した。
「彼女、ウルトラガールなんですよ」
「ウルトラガール?」
「そうです。景気回復の女神ってさっき説明の人も言ってた。でもすぐこの事は忘れちゃいますから」
「忘れる・・・」
「そう、私もよくわかんないんですけど」
 
***
 
さて、九川先生は無事助けたし次は怪獣ね。
足元を見ると建物内で変身したので膝下のところで立会場の天井をぶち抜いている。これじゃあ、さっきの怪獣こと巨大魚が見えない。
「仕方が無いわ」
中腰になって天井を思いっきり叩いてやると、鉄筋コンクリートで出来た天井はバキバキと、いとも簡単に崩れていく。
「さあ、見つけたわよ」
崩れた天井の瓦礫をどかすと、そこには埃まみれになった巨大魚がじっとうずくまっていた。私が巨大化したので片手で掴めるぐらいの大きさだ。
「覚悟しなさい!」
そいつを片手で掴んで引っ張りあげようとした。が
「あ、あれ持ち上がんない!」
どうした訳か、とても重くて持ち上がらないのだ。
もう頭に来た。瑠奈はしゃがみこんで両手で一気に力を入れて引っ張り上げた。
「そーれっ・・・きゃああ!!」
一気に力を入れたとき魚を掴んでいた手がニュルっと滑ってそのまま後ろの15階建ての東京証券取引所本館に尻餅をついた。しゃがんだ形からだったので、最初にお尻から建物の5階辺りに当たって崩れていき、次に背中が、そして最後に後頭部が13階に当たって壊していった。
「いてて・・・」
すごい埃が晴れて、気付くと体全体がビルにめり込んだ形で座っていた。
「あー壊しちゃった・・・。こっちは壊す必要無かったのに・・・」
これ以上壊さないようにゆっくりと立ち上がって後ろを見ると、きれいに瑠奈の背中の形を残して崩れている。幸い人は避難して良かったわ。
先生達の方を見ると呆気にとられてこっちを見ている。

「景気回復の女神か・・・明日からの取引はどうするのかしら・・・」
九川先生はその光景を見て呟いた。

「あれ?どこへ行っちゃったのかなあ?」
足もとの瓦礫をガサゴソと掻き回して魚を探してみるが見つからない。
「もしかして・・・逃げられちゃったとか」
必死になって探してみるがやっぱり見つからない。その時、下の方から声がした。
「月里さーん!!」
声の方を見ると道端に九川先生が手を振っている。何だろう?顔を近づけてみると
「こっち、こっちの方へ逃げたわ!」
大きな手振りでそう教えてくれた。先生が指差した方は南の方角だ。そう言えば確かに魚が這っていった埃の跡が残っている。
「先生、ありがとう。それじゃあ私、退治してきます!それと先生。今日のところは変身しないで私に任せてください。3回連続で助けられるのはイヤなので」
「ヘンシン・・・助ける・・・?」
瑠奈は両足をゆっくりと足元の瓦礫を散らかさないように抜いて、目の前の平成通りに足を置いた。
 平成通りは2車線の狭い通りだ。さっき地下鉄茅場町駅から東京証券取引所まで歩いて来た時は狭いとは思わなかったけど、身長80mに変身してはとても狭い。両足を置く事さえ出来ない。なんだか平均台の上を歩いている感じだわ。
「あらら・・・」
交通量の多い4車線の永代通りとの交差点に出た。そこでは急に飛び出してきた巨大魚にびっくりして急ブレーキをかけたのか車が何重にも追突して止まっている。瑠奈は楽々とそれらの車を見下ろしながら永代通りを飛び越えた。
「どこまで行ったのかしら?足が速いわね・・・」
 平成通りにはずっと先まで車が両端に止まっている。それは通りを走行中だった車が突如現れ、突進してくる巨大魚に驚いて道の両端に寄せられて止まっていたのだ。なんとか巨大魚を避けて再び車を発信しようとしたら今度は巨大な靴がやってきた。上の方に目をやるとソックスに脚、そして高校の制服を着た巨大美少女だ。車の横を巨大な靴が地響きをさせながら通過すとき上を見ると・・・見えた。巨大なパンティーがみえた。道行く人達はただ呆気にとられて見上げるだけだった。
「それにしても歩きにくいわね」
周りのビルは10階ぐらいで、ちょうど私の腰より下辺り。通りは狭いからさっきからスカートがビルに引っ掛かっちゃってしょうがないのよね。仕方が無いわ、どうせみんな見た事は忘れちゃうんだから良いか・・・
瑠奈は両手でスカートを捲し上げて、パンティー丸出しになった。これには下で見ていた男達はたまりません。
「恥ずかしいけど、これで歩きやすくなった・・・あっ!いた!!」
目の前の交差点に、さっきの魚がどっちに行こうかと迷った感じで目をきょろきょろ動かしていた。
「そこの魚、待ちなさ―い!!」
瑠奈はホップ・ステップ・ジャンプで交差点にジャンプした。しかし魚の方が動きが速い。瑠奈が着地しようとしたその時、危険を感じて全身で飛び跳ねるようにして速やかに逃げてしまった。しかし瑠奈も負けてはいられない。着地点の八丁堀2丁目交差点の中央に大きなクレーターをつくって素早く交差点を右に曲がり魚を追った。今度の通りは広いのでビルを気にしないで走れる。
あんな魚、ここまで追いつけば分けないわ。と、もう少しで手が届くというところで、
「きゃああ!!」
踏み込んだ片足の地面がグニャリと、いとも簡単に陥没してしまい、つまずいて前のめりに転んでしまった。中央分離帯の街路灯や信号機が瑠奈の下敷きとなりバキバキと折れていった。
「痛いっ!な、なんなのよ!!落とし穴でもあるわけ・・・ああ!やっちゃったあ・・・」
見ると橋の上を踏み抜いてしまったようだ。思いっきり足を着地させちゃったもんねぇ・・・
パタパタと服を払いながら、ゆっくりと両手を支えにして立ちあがってみると、あれ、おかしい?横を見ると川じゃなく道路だ。『C1首都高速 宝町入口』の標識もある。という事は・・・
ゆっくりと足を抜いて、穴の中を恐る恐る覗いてみる。もしかして車を踏み潰しちゃったかも・・・
「ふっ・・・よかった。今度から気を付けないと」
踏み抜いてしまった橋下の首都高速の路面にはアスファルトに多数の亀裂が入っているものの車を踏み潰したような痕はなかった。ただ車が靴に衝突したものの、開いたエアバッグ越しに瑠奈の巨大な目を見て驚いていたから命に別状はないようだ。
「さあ、いくわよ。怪獣だか魚だか知らないけど、もう許さないわ!あ、あれれ・・・どこ行っちゃったの?」
目の前を見ると巨大魚の姿は見当たらない。瑠奈が転んでいる間にどこか行ってしまったようだ。
「あ、あそこ。もしかして東京駅?もうこんな所まで来ちゃったのか・・・」
通りの先の突き当たりに13階建ての大丸の入った東京駅八重洲口が見える。瑠奈はとりあえず駅の方へ歩いていった。
広い昭和通りの交差点を跨いで、次の中央通りを跨ぎ、八重洲口に着いた。
「おかしいわねえ?異常はないわ」
左右を見渡しても異常はない。ただ、駅にいる人たちは突如として現れた巨大少女に逃げもせず、ぽかんとして見ているだけだった。
「どこへ逃げたのかしら?」
もう一度、左右を見まわしながら戻ってみた。
「あれぇ、いない・・・あっ、いた!」
中央通りとの交差点に差し掛かった時だった。右を向いたときに例の巨大魚の姿が見えた。
「今度こそ逃がさないわ!」
ずっと逃げられっぱなしだったので、ウルトラヒロインの意地をかけても捕まえなくてはならない。道路の中央の車を押し分けながら進む巨大魚に向かって、手を伸ばして思いっきりスライディングした。ドスン!と瑠奈の体重で思いっきり道路がへこんだが、そんなことより両手で尾ひれをつかむことができた喜びの方が大きかった。
「やった!ようやく捕まえられたわ!覚悟しなさい!!」
巨大魚の動きを止めようと立ち上がろうとしたがズルズル引っ張られて立ち上がろうにも立ち上がれない。
「もお、一体この魚のどこにそんな力があるのかしら?」
ふと横を見ると歩道にいる人たちがこちらを見ている。そりゃそうだ。巨大魚にずるずると、巨大娘がうつ伏せの状態で引っ張られているのだから。
「ああ・・・恥ずかしいなあ・・・これじゃあウルトラヒロインの面目丸つぶれだわ。あれ?なぜかみんな前のほうを指差している。え、なに、前のほうを見ろって?」
急いで前を向くと目の前に『銀座京橋』と銘が入った橋梁が飛び込んできた。
ゴツン・・・
鈍い音とともに、おでこに痛みがはしった。
「いててっ・・・・」
痛さで手を離してしちゃった。それよりもなんなのよ、これっ?
 顔を上げると目のすぐ前に自動車が止まっている。あっ、乗ってる人がこっちみて驚いてる。よく見るとこれは首都高の橋梁だわ。渋滞中の橋にぶつかっちゃったみたいね。
「そんなことよりもあの魚はと・・・」
橋を壊さないようにゆっくりと立ち上りると、橋が数メートル、さっきの衝撃でずれている。
「ご、ごめんなさいね。私急ぐんで・・・」
瑠奈はそっと立ちあがった。
 
***
 
 ここから先は銀座、平日の昼前とはいえ、人通りも多い中央通りを、首都高速の橋梁より低かったために、尾をつかんでいた瑠奈からまんまと逃げることのできた巨大魚は相変わらず胸鰭を使って南へと進んでいた。
「待ちなさーい!!」
その大きな声に人々は振り向いた。銀座1丁目と京橋3丁目の境に掛かる高速道路の橋梁を跨いで高校の制服を着た巨大な美少女が立っていた。その少女がズドン、ズドンと地響きを響かせながら向かってくる。人々はますますパニックに陥った。はずだったが、なぜか男だけは何を期待しているか逃げようとはしなかった。そんなことはつゆ知らず、瑠奈は通りを巨大魚に向かって真っ直ぐ向かった。通りすぎるとき、こびとの男達は思わず上を見上げてしまうのだった。
 
 なぜだかさっきより巨大魚の動きが緩慢になった。これなら楽々手が届きそうだなと思ったその時、
「あっ!」
通り左側のビルの看板が目に入り、瑠奈は思わず両手を地面につけてしゃがみ込んで店の中を覗き込んだ。
「うわーっ・・・素敵っ!」
店内の客が巨大な顔が覗き込んでいるのを見て、一斉に外に逃げ出した。しかし店員はさすが高級品を扱っているだけに恐怖で硬直しながらも逃げようとはしなかった。この店に掛かっていた看板は『TIFFANY&CO.』。
「あのネックレスすてきだなあ・・・店内に入って他のも見てみたいけどこの大きな体じゃ入れないし・・・そうだ、こんな事している場合じゃないわ、さっさと巨大魚をやっつけないと。ここへは後で菜穂ちゃんと来よっと」
すくっと立ちあがって銀座4丁目交差点の方を見ると巨大魚が和光の角を右に曲がっているところだった。このままではまた逃げられそうだ。
「あーっ、何やってんだ私・・・そうだ!」
すぐ手前の角を曲がって、細いマロニエ通りをつま先走りで走り抜け、プランタン銀座の連絡通路と、その先の高速道路をハードルのように飛び超えた。
「ふぅ・・・間に合った。追いかけてダメなら先回りすればいいのよ」
瑠奈は有楽町マリオン前の晴海通りに立って待ち構えた。巨大魚が向こうから瑠奈のことなど全く目に入っていないかのようにこっちに向かってきた。
「さあ、来なさい!あ、あれれ・・・」
さっきまで大型トラックぐらいの大きさだった巨大魚が急に巨大化して道いっぱいまでの大きさになっていた。瑠奈にとっては熊ぐらいの大きさだ。
「ちょ、ちょっと待って!こんな急に巨大化するのは無しよ!」
これじゃあ勝てそうも無い、というよりこんなところでまともに戦ったら銀座を廃墟にしてしまうわ。それは困る。だって後で菜穂ちゃんと買い物にくる予定なんだもの。
「ど、どうしよう・・・」
とりあえずはあの魚を他の場所へおびき寄せてそこで退治しよう。それにはえーっと・・・
そうこうするうちに巨大魚は目の前にある数寄屋橋の高速道路高架橋を破壊しながらこっちにやってきた。
ふと足元の轟音に気づいて下を見てみると、電車が走っている。そうだ、次に破壊されるのはこのJRのガードだ。今の高速道路はたまたま車が来なかったからいいものの、電車にはたくさんの人が乗っているから大変なことになるわ。何とかしないと!
振り向くと、新橋方向から一番向こう側の線路を、ステンレスが日光を反射して眩しく輝やく模型のように見える電車が走ってきた。
「まずこれから止めないと・・・」
 
***
 
 田町を発車した京浜東北線大宮行きは、この時間は快速運転となって東京までの3駅を通過する。時速60km前後で浜松町、新橋を定時で通過した。今日は天気が良いので運転手にとってブレーキ操作も悪くないし列車無線で事故の情報も入ってこない。快適そのものだった。
「ん?」
新橋の速度制限区間を過ぎ、マスコンを手前に引いて加速したときだった。右カーブの先に上空から細長いものが、すうっと降りてきて青い火花を散らして架線を切断し、そのまま線路上に落下した。
「?!」
何が何だかわからないが手前に引いていたマスコンを、急いで奥へ倒して非常ブレーキをかけた。後ろの客室からは乗客の悲鳴が聞こえ、床下からは『キー』というレールと車輪の擦れ合う甲高い音を立てている。
「止まってくれ!」
運転手の願いもむなしく、ゆっくりと褐色の壁がゆっくりと近づいてくる。(止まれないと10秒減点ってなゲームがありましたな)
『ガクン!』
覚悟していたよりずっと衝撃は少なかった。ただ前面のガラスは何かが被さった様で真っ暗だ。だが、その覆っていたものが次第に上がっていき再び何も変わらない線路が前方に見えた。しかし目線を右のほうにそらすと、先ほど前方を塞いでいた壁のようなものが形を変えて今度は隣の山手線の架線を青い火花を発光させながら壊し始めた。
「い、一体何なんだ?」
運転手や乗客達は呟いた。
 
***
 
 手のひらに軽い衝撃を感じながらも電車は止まった。と思ったら今度はその隣を山手線がやってきた。逆からは東海道線が
「ど・どうしよう・・・電車を一度に止めるにはどうしたらいいの・・・そうだ!」
瑠奈は電車を押さえていた右手を一気に手前に向かって引いた。線路上5m前後の高さにある架線を青い火花をスパークさせて切断していった。
「電車は電気で走るからこうやって電線を切っちゃえばいいのよ。ちょっとビリビリするけど静電気みたいなものだし、ほら、みんな電車が止まってくれるわ・・・あっ、痛いっ!」
7本目の架線に近づいた時だった。今までのビリビリとは違う、バチンと大きな音を立てて指先がはじき返された。AC25000ボルトの電圧は今までのDC1500ボルトと違って巨大化した瑠奈でも簡単には手を出すことはできなかった。
「な、何でここだけこんなに痛いの?これじゃあ切れないじゃない!あと2本だって言うのにぃ・・・あっ、と、止まれ!止まれっ!!」
その7本目の線路上を向こう側からライトを輝かせて列車が入ってきた。
 
***
 
 名古屋を発車した『のぞみ』は新横浜を時速270kmで通過した。
品川を過ぎ、東京到着のアナウンスが流れだすと乗客達は降りる支度をはじめた。ビルの谷間を走る新橋あたりではだいぶ速度も落ちて、東京駅の1つ手前、有楽町で停車した。東京駅のホームが一杯だとよく信号待ちをするので乗客達は取り立てて心配する事もなかった。
 しかし、一番最後尾の1号車の乗客達は違った。右側の車窓に何やら変なものが見えたのだ。それは丸くて2つ横に並んでいて、透明感があって・・・それが巨大な瞳であることは時々瞬きすることでわかった。ふと気がつくと車内が薄暗くなった。天井を見上げてみると照明が消え、非常灯だけになっていたのだ。『ミシッ』という車体がきしむ音と同時に後半分の窓が何かに覆われて何も見えなくなった。
「キャーッ!」
そして少しずつ車体が後のほうから持ち上がって、傾いた車内を網棚の荷物や窓枠に置いてあった缶、床下の空の弁当箱が勢いよく前方の2号車側へ転がり落ちていった。乗客は悲鳴を上げながら前の座席にしがみついているのがやっとだった。
 
***
 
 白いボディーに青のラインが入った長い編成の列車が目の前を通り過ぎていった。瑠奈はどうすることもできずに屈んで覗き込むしかなかった。車体横の行き先には『のぞみ 東京』とあった。
「私の目の前で止まってどうするの!」
その新幹線が、あともう少しで通りすぎるというところで最後の1両を残して停車した。先頭の方を見ると東京駅から別の新幹線が発車しようとしているところだった。
「こんなときに限って信号待ちか・・・時間がないわ!仕方がないっ」
窓越しに乗客達がこちらを見ながら驚いて騒いでいるのがよくわかる。しかしこのままほっとけない。瑠奈は意を決っして右手を伸ばした。
「キャー!!」
指先に激痛が走り、大きな青いスパークを発して架線を切断し、最後尾の車両を掴んだ。
「いたたたたっ・・・」
手に痺れを感じながらも、ゆっくりと車両を持ち上げた。車内から悲鳴が聞こえるが仕方がない。アヒルの嘴のような最後部の車両は、台車を線路上に残して持ち上がった。
「あ、あれれ・・・」
1両だけを持ち上げたつもりだったのに連結されている前の車両も同時に持ち上がった。1両だけ別なところに置けばいいやと思ったが、これでは当てが外れた。
「どうするのよ・・・仕方がないわ」
そのまま線路上に戻して、ぎゅーっと前方に無理やり押し込んだ。
「なんか前の方の車両も脱線しちゃったみたいだけど・・・でも巨大魚に潰されるよりはいいわ。あっ!忘れてた!!」
後ろを振り向いたその時だった。背中を『ドン!!』と何か大きな物に勢いよく押された。
「きゃーっ!」
そのままどうすることもできずに瑠奈は前のめりに倒れた。大音響を立てて瑠奈の体の下敷きになってJRのガードが崩れていった。
「うっ・・・」
急いで立ちあがろうとしたが、今度は背中に重いものを感じて立ちあがれない。巨大魚が私の背中に乗っているんだわ。
 うつ伏せに倒れたままどうすることもできずにそのまま倒れていたが、ようやくその重みも感じなくなってゆっくりと立ちあがってみると、見事にJRのガードはバラバラに壊れて鉄くずと化している。電車をどかしといてよかったわ。それにしても顔がやたらヒリヒリする。もしかしてと思って瑠奈は急いで一面ミラーガラスの有楽町マリオンに顔を映してみた。
「ひどーい!」
顔には無数の線路や架線柱の痕が赤く、くっきりと残っていた。
「乙女の顔に、こんな痕をつけるなんて許せない!!」
瑠奈の怒りに火がついた。その憎し巨大魚の方を見てみると、いつのまにか日比谷交差点の先に見えた。
「待ちなさ−い」
瑠奈は走りこんで巨大魚の背中に飛び乗った。
「こらっ、止まりなさい!うわっ、きゃあっ!」
飛び乗ったものの巨大魚の上は鱗が無く、ぬるぬるしていて掴むところがどこにも無い。そのまま滑って振り落とされてしまった。
「冷たいっ!」
落ちたところは日比谷公園内の心字池だった。大きな池も瑠奈にとっては水溜りぐらいにしか感じない。ただ尻餅をついたのでスカートどころか下着までびしょ濡れだ。
「もう頭に来た。ウルトラヒロインをこんな目に合わすなんて!あっ、そうだ、この大きな公園の中なら被害が少ないわ。ここで決着をつけよう」
スカートの裾や下着から大きな水滴を垂らしながら立ちあがり、巨大魚の前へ先回りした。
「待ちなさ−い!」
大噴水を跨るように仁王立ちした瑠奈は近づいてくる巨大魚に対して構え、そしてキックやパンチを入れてやった。が、何をやっても相手は動じない。それどころかズルズルと押されていく。瑠奈も両足で力いっぱい踏ん張るが全く効かない。つま先が大きく地面を掘り返し、足元の樹木がバキバキとなぎ倒されていくのが靴裏から感じられる。あれ、感触が違うと思ったらいつのまにか野外音楽堂のところにきていた。ステージのコンクリート製の屋根が瑠奈の靴底で簡単に崩れ落ちてしまった。ここまで来るともう公園の端だ。後ろを見ると多くのビルが見える。
「止まって!」
瑠奈の願いもむなしくただズルズルと押されていくばかりだ。公園の柵をなぎ倒し公園前の通りに押し出された。こうなったらせめて周りのビルに突っ込まないように道路上を誘導するしかない。
「お願い、お願いだからもう止まって」
これじゃあ東京じゅうを押されてしまうだけだわ。そう思ったとき願いが叶ったのか巨大魚の動きが止まった。
「ふう・・・」
 周りを見渡すと一帯は10階建て程度の低めの大きなビルがずらっと並んでいる。なぜか人気はなく。交差点の信号だけが車も来ないのに律儀に点灯している。標識をを見ると『霞ヶ関』とあった。
「霞ヶ関・・・官庁街か。どうやら人達は素早く避難しちゃったみたいね。道路も広いし、ここなら思いっきり戦えるわ。ようしっ、ここで決着つけるわよ!」
目の前の巨大魚を見ると大きな目玉をぎょろぎょろさせてあたりを見渡している。何かを探しているようにも見える。
「何探しているのよっ!あなたの相手は目の前にいるこの私。さあ、覚悟しなさい!」
パンチやキックを見舞ってやるとさすがに痛がっているようだ。でもなぜだか反撃してこない。
「動かなきゃ私の勝ちね。これでも食らえ!」
廻し蹴りを思いっきり食らわしてやった・・・はずだったが
『ズボッ!』
足がパクパクしていた口の中に入ってしまった。
「わ、わぁっ・・・は、放して!私なんか食べてもおいしくないわよ!」
足を抜こうと、思いっきり力を入れて引っ張った。
「ぬ、抜けなぃ・・・う、う−っ・・・うわっ!!」
足が抜けた。が、その拍子で勢いがついて後ろの交差点角に建つ8階建ての外務省の庁舎に背中から突っ込んだ。
「いたたたたっ・・・古い建物は硬くて尻餅着いて突っ込むと痛いや」
粉々になった瓦礫の上で尻をさすっていると、向こう側から怒りをあらわにした巨大魚がこちらに突進してきた。
「わあっ」
瑠奈は、すかさずよけて巨大魚をかわした。目標を見失った巨大魚はそのまま建設省と運輸省がはいっている11階建ての合同庁舎三号館へ突っ込んで粉々にした。
「さあ、いくわよ!」
瑠奈が背後から巨大魚目掛けて瓦礫の中へジャンプして飛びこんだ。が、巨大魚のほうも瑠奈に感づきさっと逃げ出した。
「こら、待ちなさい!きゃあっ!!」
瓦礫とビルの間をすり抜けていこうとする巨大魚を捕まえようと足を踏み出そうとしたとき、足元の瓦礫が瑠奈の重みで崩れ、バランスを崩した。そのまま前かがみになって目の前の不祥事で取り沙汰されている警察庁がはいっている仮庁舎と建設中の21階建ての合同庁舎二号館へ倒れこんだ。
「ごほごほっ・・・うわあっ、すごいホコリ・・・工事中の建物に前から突っ込むとこれだから嫌になるわ・・・ごほごほ・・・」
細目を開けて見ると、目の前の桜田通りに巨大魚が逃げずに、瑠奈の方を見ていた。目が馬鹿にしているように感じられた。
「もう頭に来た!ウルトラヒロインを馬鹿にするとは許せないわ!」
瑠奈は瓦礫から急いで立ち上がり飛び掛ったが、敵は全身で飛び跳ねるようにして速やかに逃げた。
「く、くやしい!!」
瑠奈は急いでその後を追いかけた。広い桜田通りは走りやすく難なく追いつき尾鰭を掴んだ。
「そうれっ!」
バタバタ動き出したので、そのままハンマー投げのようにぐるぐる回して通りの先のほうへ放り投げた。
『ドスーン』
「・・・やちゃった・・・」
投げた方向がずれて建物に当たっちゃったみたいだ。駆け寄ってみると崩れた建物の上で仰向けになってノビていた。瓦礫の中に『文部省』の看板が落ちていた。
「あらら、日頃お世話になっているのに、よりによって文部省の建物に当てちゃったわ。まあいいわ、別にわざとじゃないもの。それよりも巨大魚に最後にとどめを入れないと」
瑠奈はジャンプしてドロップキックを入れた。形がきれいに決まった。
「痛い!?」
しかし、着地したときに目の前にいるはずの巨大魚がいない。右膝にヒリヒリ痛みが走った。そっと見てみると瓦礫が突き刺さり血が流れ出している。
「あーっ、痛くて立てないや。文部省の建物を壊した罰が当たったのかな?これじゃ戦えないや・・・あ、そうだ巨大魚は」
視線を上げると目の前に殺意丸出しの目をした巨大魚がいた。
 瑠奈は急いで立ち上がろうとしたが立てない。巨大魚がそのままドスンと瑠奈に体当たりしてきた。瑠奈はなされるがまま尻餅をつき、ものすごいスピードで押されていった。
「やめてー!」
押されるがまま桜田通りを突っ切った。瑠奈のお尻が中央分離帯の照明灯をなぎ倒した。
『ガシャン!』
背中に何かが当たったみたいだ。振り向くと12階建てのビルだ。当たった衝撃でいっせいに全てのガラスが割れたのだった。そのまま瑠奈の背中に押し潰されて郵政省庁舎の桜田通り側の西半分は瓦礫と化した。
「何とか止めないと!」
両腕を伸ばして突っぱねて止めようとしたが、止まらない。またすぐに背中に衝撃を受けて再び瑠奈の背中でビルが粉々に崩れていった。こうして17階建ての通産省本館は崩れていった。
「背中とお尻が痛いっ!」
駐車場の車が瑠奈のお尻で次々と押し潰され、東側の11階建ての通産省別館を背中で粉々にすると後ろに緑が見えた。
「あ、日比谷公園だ。となると、このまま銀座まで押されつづけるとか?それは困るわ、何とかしないと」
方向だけでも変えようとケガをしていない左足に思いっきり力をいれた。そうすると少しずつ進路が右へ向きが変わった。
「やった、これで大丈夫・・・痛ぃ!」
後頭部に痛みを感じた。何かが当たったようだ。振り向くと高層ビルだ。今までは低かったから背中しか当たらなかったけど今回のはもろに当たった。それでもなお巨大魚が押し続けるものだから
「きゃーっ!!」
瑠奈の頭より高い部分が崩れ落ちてきて、瑠奈と巨大魚に直撃した。労働省と薬害エイズ事件の厚生省が入っている、この26階建ての中央合同庁舎五号館は瓦礫と化した。
「はあ、はあ・・・やっと止まった・・・」
瑠奈が気づくと、崩れたビルが直撃して巨大魚は気を失ったのか動かない。
「ようしっ、今のうちに」
そーっと立ち上がってこの場から離れようとした。
「あっ!痛いっ」
右膝の痛みに思わず声をあげて前のめりにつんのめって、右手を目の前で気を失っている巨大魚に当ててしまった。
「し、しまった!」
気を失っていた巨大魚が目を覚まし、瑠奈のほうをじろりと見た。
「あ・・・」
瑠奈はどうすることもできずに固まってしまった。そんな瑠奈に巨大魚の怒りの一発が炸裂した。
「きゃーっ!!」
巨大魚の強烈な頭突きを入れられた瑠奈は、吹っ飛ばされた。
「いたたたっ・・・」
霞ヶ関坂手前の桜田通りに大きなクレータを作って尻餅をついた瑠奈は、尻をさすりながら、はっと思って前を見てみると、そこには殺気だった巨大魚が立ち上がって今にも瑠奈を襲おうとしていた。瑠奈もすかさず両手をクロスさせて光線を発射させようとしたが、だめだ。一寸のところで巨大魚の攻撃のほうが早かった。
「きゃーっ!!・・・・・・・・・・・・・・」
目をぎゅーっと瞑り両腕で顔をかばって、少しでも攻撃の衝撃を和らげようとした。
「・・・・・・・・あ、あれ?」
いくら待っても攻撃が無い。こわごわとそっと腕をどかして見てみると、さっきまで瑠奈を狙おうとしていた巨大魚がいない。巨大魚は?とみると目の前の8階建てのビルを全身で身をくねらせて壊している。
「?」
瑠奈はあっけにとられるばかりでただ見ているしかなかった。なぜなの?攻撃の対象は私なのに。急にこの建物を壊し始めたりして
「ちょっと、あなたの相手は私よ!私はウルトラガール。街を壊す怪獣を退治するのよ。ねえ聞いてるの?もお、そっちが聞かないのだったらこっちから攻撃するわよ!」
巨大魚の目の前に廻ってみて言ってみたものの何の反応も無くあいも変わらず建物を壊しまくっている。エロ怪獣も困るけど、こういう無反応なのも困るなあ。とにかく壊すのを止めさせないと
「あっ!」
巨大魚に飛びかかろうとした瑠奈に巨大魚の目が見えた。それを見て瑠奈の体が止まった。その目から涙が流れていたのだ。魚が泣くの?でもその目には何かを訴ったいかけたいような、そんな感じがした。それに建物が崩れていくごとにだんだんと巨大魚の体が薄くなって透明感が増していくようだった。そして全てが瓦礫に化したときには、
「消えた・・・」
目の前で暴れていた巨大魚が跡形もなく消えた。
「な、なんで?あんな大きな巨大魚が消えちゃうなんて?」
瑠奈は不思議でならない。でもなんでこの建物を壊して消えちゃったんだろう?
足元の瓦礫の中に看板を見つけた。
「農林水産省か・・・農林水産省とあの魚と何の関係が・・・あっ!」
その看板の横に瓦礫に混ざって多くの書類が落ちていて、その中にさっきの魚の写真が載っている書類があった。マル秘の印があるその書類を指先に乗せてみる。
「この中にきっと秘密があるはずだわ。見にくいけど読んでみよう。えっと『諫早湾干拓事業における動植物の影響。諫早湾干拓潮受け堤防閉め切りにより湾内の多くの海洋性動植物が死滅すると見込まれる。主なものだけでも以下の通り・・・・・・・・ムツゴロウは日本では有明海北部と八代海の奥部のみに生息し環境庁の絶滅危惧種約2000種の一つ、絶滅危惧II類(VU) に上げられている。・・・・・・・・環境には重大な影響を与えるだろう。しかし災害対策と事業目標を変更してでも農林水産省の名誉にかけて干拓事業計画を推進するべきであり・・・・・・・・』わかったわ。あの巨大魚はムツゴロウなんだ。そう、諫早湾で犠牲になった生物達の怨念なんだ。怨念を晴らすために農林水産省の建物を破壊しに来た。ずっとそれだけの目的でこれまで東京中の建物を探していたんだわ」
1997年4月14日に諫早湾を閉め切る鋼板が次々と海へ落とされた『ギロチン』と名づけられた潮受け堤防建設時の映像が思い出された。改めて足元の瓦礫を見る。
「ふん。こうなったのも結局、他の生物のことを考えずに自分達のことしか考えない役人の自業自得なんだわ。さあ私も帰ろう」
 
***
 
(しかし、ここで終わっては健全なウルトラヒロイン小説になってしまうのでさらに続く。)
飛びあがろうとしたときにふと、瓦礫と化した霞ヶ関の中央に無傷の建物が目に入った。
「あれれ、あれだけ暴れまわったのによく無傷で残ったわね。なんて運の良い役所かしら」
そばによって建物正面を覗き込んでみた。
「えーっと、大蔵省か・・・ふーん」
ここで瑠奈の頭の中にひとつのことが思い出された。大蔵省・・・大蔵省といえば『ノーパンしゃぶしゃぶ事件』・・・
古い話だけど大蔵省の役人がMOF担と呼ばれる銀行の大蔵省担当者にノーパンしゃぶしゃぶで接待を受けた汚職事件だ。ここで瑠奈の中に怒りが込み上げてきた。
「農林水産省を巨大ムツゴロウが成敗するなら、大蔵省は巨大女子高生が成敗してあげるわ」
瑠奈は片足を大蔵省の中庭に着地して、5階建ての建物に跨る格好となった。
「そんなにノーパンがいいのならこうしてあげる。ほら!」
スカートを捲り上げパンティーを脱ぎ捨ててゆっくりと屈んだ。
「ほら、これで満足した・・・はあん!」
気持ちいところが建物に当たって思わず声を上げてしまった。
「あはーん!古い建物は丈夫で硬くて、新しいビルとは違ってなかなか壊れないっ!」
なぜだか腰が動いてしまう。しかし、いつものように腰を前後に動かしているのになかなか壊れない。ただあそこがぐちゃぐちゃといやらしい音を立てるばかりだ。
「もお、じらさないでっ!」
体重をかけるとさすがの建物もボロボロと崩れてきた。
「はあん、きもちいいっ!でもパンティー越しと違ってちょっと刺激が強すぎるのかも・・・」
そうこう言っているうちに建物は瓦礫と化していった。
「はあはあはあ・・・・・あ、あっ、見ないでっ!」
ふと我に返ると周りに人がいっぱいた。また自衛隊の人達?じゃ無いわ。皆、背広や私服姿で手にカメラや手帳を持っている。あれ、急に私なんか関心が無いといった感じで瓦礫の中から書類を集めだした。あちこちから「これはすごい、スクープだ!」なんて声がする。すると、どこからともなく別の背広の人達がきて「やめろ!国家機密だぞ」なんて言いながら止めに入った。「情報公開しないおまえらが悪いんだ!」「うるさい!マスコミに国家を背負っている官僚の苦労がわかるか!」「そんなこと言っているから不祥事が絶えないんだ!」「なんだと!」
あらら取っ組み合いの喧嘩になっちゃった。この隙に帰っちゃおう。
 瑠奈は飛び上がった。
 
***
 
「月里さん、無事なのね!よかった」
変身を解いて瓦礫と化した東京証券取引所の前に戻ってきた。すると真っ先に九川先生が駆け寄ってきた。
「良かった。本当に良かったわ。先生ね、天井が崩れてきたとき、一時はどうなるかと思ったわ。あれ?それで私、どうやってここへ辿り着いたのかしら?それにあの巨大ムツゴロウはどこ行ったの?せっかく私が発見した新種なのに・・・ねえ月里さん、知らない?」
「あ、あのう・・・それは・・・」
瑠奈が言葉に詰まっていると
「あれ?それになんだか変よね、『月里さん。無事だった?』って前回もこんなセリフ言ったような気が・・・」
や、やばい。感づかれたか・・・。急いで話を変えないと!
「せ、先生。そのブレスレッドは?」
ずっとこのことが気になってたんだわ。もしかすると実は九川先生、あのウルトラヒロインだったりして・・・
 しかしその返事は
「あ、ああこれ。どお、似合う?」
ガクッ・・・
「はぁ、はい・・・でも誰かからもらったんですか?」
もしかして、もしかして・・・銀色の・・・
「そうよ。でも誰かは・・・」
「誰かは?」
「ひぃ・みぃ・つ。あっ、もうこんな時間だ。今日のところはこれで解散。それじゃあ、また明日。レポートの宿題忘れないでね!」
九川先生はそう言い終わると片手で携帯電話を取り出して楽しそうに話をしだし、もう片方の腕を挙げてタクシーを止めて乗って行っちゃった。
瑠奈は呆然と見送るだけだった。あーん。先生の正体は一体なんなのーっ!
(そんな訳で3回にわたって日本のウルトラヒロインめぐりはひとまわりしました。前任者に引き続き気配りの企画でしたね。え?3人目は変身してないって?)
それに最後の言葉は何?私聞いてないわよ。
「ねえ、私達も行きましょ」
その声に振り向くと菜穂ちゃんだ。
「ねえ、先生が『レポートの宿題忘れないでね!』って言ってたけど何の事?」
「えっ、瑠奈ちゃん知らないの?」
「うん」
「きのう校外学習のレポートがあるって言ってたじゃない。聞いてなかったの?」
「そう言われればそんな気が・・・今日のことでそわそわしてたんで聞いてなかった・・・」
「しょうがないなあ。いいわよ、私の見せてあげるから。さあ行きましょ」
「ありがと、持つべきものは親友だわ」
道理でみんな真剣に聞いてたわけだわ。
 
 それから2人は地下鉄茅場町駅に向かった。駅の階段を降りたときに異変に気づいた。構内が人でいっぱいなのだ。
「何かあったのかしら?」
「さあ?」
お互い顔を見合わせたが、そうこうするうちに構内放送が流れた。
『ただいま日比谷線は銀座と霞ヶ関の間で、銀座線は日本橋と銀座の間で、丸の内線は銀座と霞ヶ関の間で、浅草線は日本橋、宝町間で、有楽町線は銀座1丁目付近において地上で原因不明の陥没が起き、トンネル崩落が多数発生したため全線で運転を取りやめております』
「陥没?地震でもないのになんで陥没したのかしら?」
「何でかしら・・・あっ!」
ここで瑠奈は口を手で押さえた。わかった!これって私のせいだ。巨大化して走り回ったり、派手にスライディングなんかしたから道路をへこませて地下鉄トンネルまでもが崩落しちゃったんだ。しまった!銀座は守れたけど交通手段のことは忘れてたわ!せっかく楽しみにしてたのに、もうこうなったら意地でも行ってやるわ!
ふと目をやると壁に掛かっている地下鉄路線図が見えた。
「そうだ、東西線は動いているのよね。それなら大手町で降りて東京駅から山手線で有楽町に出れば・・・」
菜穂に路線図を指差した時、また放送が流れた。
『JR線は有楽町駅付近のガードが倒壊したため山手線、京浜東北線、東海道線、東海道新幹線は全線で運転を取りやめていると連絡が入ってきました』
ガクッ。私としたことが何でこうドジなのかしら。
「ねえ瑠奈ちゃん。今日は諦めようか」
「いや、せっかくなんだから諦めないわ。仕方がない、最終手段よ!」
そう言って瑠奈は菜穂の手を引いて階段を出口へと上っていった。
「最終手段って何?」
「歩いて行くの。2駅ぐらいだから大した距離じゃないわ。あっ!」
「ど、どうしたの瑠奈ちゃん」
「い、いや。や、やっぱり、私帰る・・・」
「急にどうしたの?気分でも悪いの?」
「いや、あの・・・そ、そうなの・・・」
ここで瑠奈は重大なことに気づいた。階段を上るときにスカートの中で布地が皮膚と触れ合う感覚が全くないのだ。そうノーパンだったのだ。
 ちょっと!ダメージは変身を解いたときにすべてクリアされるんじゃなかったの・・・あっ!自分で脱いじゃったんだ・・・それじゃダメージじゃないわね。あーっ恥ずかしい!!
 
そのころ廃墟と化した霞ヶ関上空を、元の大きさに戻ったパンティーが風に舞っていた。
 
***
 
 それからしばらく、霞ヶ関から発掘された極秘文書によって数多くの隠ぺいされていた不祥事が明るみになった。これで日本は変わるかもしれない。
でも不満顔だったのは、記者会見で頭を下げ続ける役人と政治家。それに
「こんなに役立っているのに、なんで私には一円も入ってこないの!!」
月里瑠奈だった。
 

10.『霞ヶ関』
−終−

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