ウルトラガール
9.『先輩』

「早く怪獣、来ないかなあー」
おいおい!ウルトラヒロインがそんな事を望んでいいのかよ!と思いますが瑠奈は心からそう思っていた。八木麗子先生からもらったばかりの指輪をうっとりしながら眺めていたのだ。
「変身したらどんな服装になろう。わくわくするわ!」

「ねえ、瑠奈ちゃん。どうしたのその指輪?」
「えっ!」
休み時間。人に見られないように、こっそりと廊下で指輪を眺めていた瑠奈は、後ろから急に声を掛けられビクッとした。
「な、な、何でもないわ!」
振り返ると菜穂ちゃんだ。指輪を急いで箱に仕舞って後ろに隠した。
「何でもなくないわよ。あっ!もしかして瑠奈ちゃん、彼氏からのプレゼント?」
「ち、違うわよ!そんな・・・彼氏からのプレゼントだなんて・・・」
「ほんとにぃ・・・」
「だって私、彼氏なんかいないし・・・」
「じゃあ何で宝石なんて持っているの?」
「そ、そう言われればそうだけど・・・」
「ほーら、みーつけた!わっ、素敵!!」
あれこれと言い訳を考えているうちに菜穂ちゃんに箱を取り上げられてしまった。
「ちょ、ちょっと返してよ!」
「もちろん返してあげるわよ。でも、どんな彼氏か教えて。友達同士、隠し事はよくないわ」
「だから彼氏なんていないってば・・・」
「じゃあ誰よ?」
「・・・・・・」
「あっ! もしかして援助交際とか・・・」
「ち、ちがうわよ!!」
これ以上黙っていたら、とんでもない事になっちゃうわ。仕方が無い。呉れた人ぐらい言っても大丈夫よね。
「八木先生が呉れたの」
「八木先生?何で八木先生が瑠奈ちゃんだけに呉れるの?ずるーい!」
「えっ、あ、わ、わたし・・・ほら新体操の練習試合で1番だったでしょ・・・だから賞品てことで記念に呉れたの」
「ふーん、瑠奈ちゃんすっごく上手かったもんね。あれ?向こうから来るの小東先輩じゃない?」
振り返ると、廊下をこちらに向かって歩いてくる小東先輩が見えた。
「月里さん。ちょっと話があるの」
小東久美子が瑠奈の前で立ち止まり話しかけた。
「何でしょうか?」
「さっき八木先生が辞められたのを聞いたの。びっくりしちゃって・・・」
「それなら私も聞きました」
「それで八木先生から私に手紙があるって渡されたの。ところがそれがおかしいのよ」
「何がですか?」
おかしい?・・・何か私と八木先生の秘密のことでも書いてあるのかしら?
「これなんだけど」
小東先輩は1枚の紙を瑠奈の前に広げた。
「うわあ、やっぱり瑠奈ちゃんが1位だ!」
菜穂ちゃんその紙を見て言い出した。それは新体操の得点表だった。
「きのうの結果が何か?」
見たところ秘密めいたことは書いてなかった。瑠奈が疑問に思いつつ聞き返した。
「ほらここ」
「あっ!・・・それは・・・」
小東先輩が『9.7』という数字を指差した。
「最後のリボン演技。月里さん保健室で寝ていて演技はしなかったのに得点が書いてあるの。これって変でしょ?」
「た、確かにそうですけど・・・」
これは変身したときにやったリボン演技のことだわ。こんなに高得点がついたの?
瑠奈は内心嬉しかったが、本当の事を正直に言えるはずもない。急いで言い訳になるようなことを考えた。
「これは多分何かの間違いですよ。ほらリボンの前のクラブの演技は9.4ですし、その前のボールは9.5ですし、それにつられてリボンも9.7って書いちゃったと思うんですけど・・・」
瑠奈がそこまで言って言葉に詰まっていると、
「そうよね。私と違って月里さん、とっても上手かったものね」
それに対する小東久美子の言い方は、明らかに今までとは変わっていた。
しまった!と思っても、もう手遅れだ。何せ小東先輩の成績は散々足るもので得点表を見ると最下位になっている。今の言葉で逆鱗に触れてしまったようだ。
「別にあなたの成績が良いからって言っているんじゃないの。ただ白黒をはっきりさせたいだけ。だって9.7という数字を間違えていれるかしら?今となっては八木先生に確かめようがないし、そこで月里さんに聞いてみようと思って来てみたのだけど、あなた本当に何も知らないの?」
とは言っても瑠奈を見つめる小東久美子の目は鋭かった。
「いえ・・・私、何も知りません」
瑠奈はうつむきながら答えた。
「そう。それじゃあこれが間違いとなると9.7は0点になって、その代わりに1位は北嶋さんになるわね」
「そ、そんなぁ・・・」
あんなに頑張ったのに1位剥奪だなんて・・・
「なあに?何か異論でも」
小東久美子はさらに鋭い目で瑠奈の目を見つめた。
「い、いえ別に・・・」
「じゃあこれで決定ね」
「は・・・はぃ・・・」
「それじゃあ私はこれで・・・あれ、何それ?」
小東久美子の視線が北嶋菜穂の掌の輝くものへ向いた。
「これですか?これは月里さんが1位になったということで八木先生から記念にいただいたそうです」
「ふーん・・・賞品があったとはねぇ」
菜穂から指輪を取り上げてまじまじと眺めた。
「でも1位は北嶋さんなんだから、これはあなたの物よ」
そう言って小東先輩は菜穂ちゃんに指輪を返してそのまま自分の教室の方へと帰っていった。瑠奈と菜穂はただ呆然と見送るだけだった。

「な、なあにあの態度!ちょっとひどすぎると思わない」
小東先輩の姿が見えなくなってから菜穂ちゃんが声をあげた。
「どう考えてもあの言い方、上手かった瑠奈ちゃんに対するあてつけとしか思えないわ!ねえ瑠奈ちゃん、あ、あれ・・・」
菜穂が1人で気炎を上げていて、ふと隣を見ると瑠奈の目から涙が流れていた。
「ご、ごめんなさい・・・なんだかわたし・・・」
悔しくて勝手に涙が流れてきちゃう。思わず両手で顔を隠した。
「ねえ元気だしてよ。私はいつだって瑠奈ちゃんの味方だからね」
「う、うん・・・ありがとう・・・」
顔を上げられず、うつむいたままそう言うのがやっとだった。
「私は瑠奈ちゃんが1番上手だと思ってるから。それにこの指輪は八木先生が瑠奈ちゃんが1番だと思ってあげたものなんだから確かにこれは瑠奈ちゃんの物よ」
そう言って菜穂は瑠奈の指にそっと指輪をはめた。指輪の宝石が瑠奈の涙と同じように輝いた。

***

それから数週間後。すっかり指輪に対する熱意も冷めてしまった。

「ねえ、今日何するのかなあ?」
「多分、前回と同じく短距離走じゃない?」
瑠奈と菜穂は昼休みに校庭の片隅にある鉄棒に体操服姿で寄りかかりながら取り止めもないことを話していた。5時間目の授業は体育。まだ時間が早く、校庭には他に誰もいない。
「誰もいないと校庭を私たちだけで貸し切っちゃったみたいね」
瑠奈がそう言うと
「そうだ!ねえ、瑠奈ちゃん。あの時やるはずだったリボン演技。今ここで見せてくれない?」
「えっ・・・」
「あの時見れなかった演技。私、見てみたいの」
「今ここで?」
「いいでしょ。誰もいないのだから。私だけこっそり見せて」
「でも・・・」
「他の演技でもあれだけ上手な瑠奈ちゃんの事だもの。リボン演技もきっと素晴らしいに違いないわ。それをぜひ見てみたいの」
こう言われてしまっては満更でもない。
「まあ、菜穂ちゃんのお願いなら仕方が無いけど・・・でも肝心のリボンが無いわよ」
「あっ、それなら大丈夫。私持ってくるから」
そう言い終わるや否や菜穂は体育館へ走り出し、リボン片手にすぐ戻って来た。
「はい。リボン」
菜穂からリボンを受け取った瑠奈は靴を脱いで素足になった。
「それじゃあ始めるわよ」
 瑠奈の頭の中で曲が流れ、巨大化した時と同じ演技を始めた。いつものレオタードと違って体操服ではやりにくかったけれど、前回と違ってビルなんかの障害物が無いからリボンをくるくる回しながら回転やジャンプが綺麗に決まる。
そしていよいよ最終段階だ。あの時はタンクローリーを踏み潰しちゃって、足の裏に火傷はするわ、怪我はするわで散々だったけど今日はその心配も無い。
「決まった!」
瑠奈はゆっくりと確実に大きく後転をして決めた。今日はミスも無いので10点満点に違いない。
「わあっ!すごい」
周りからは、われんばかりの拍手だ。瑠奈は周囲に手を振ってそれに応えた。
 わあっ!こんなに大勢の人に拍手されてスターの気分だわ。ありがとう。皆さんありがとう・・・あれ?ちょ、ちょっと待ってよ。見てたのは菜穂ちゃんだけじゃなかったの?
今まで演技に集中していて気付かなかったけど。再び周りを見渡すとすごい人だかりだ。まるで全校生徒が見にきているみたいだわ。
「な、菜穂ちゃん!なんでこんなに人がいるの?」
急いで靴を履いて菜穂ちゃんのところに駆け寄って尋ねた。
「それが、瑠奈ちゃんが演技を始めてから急に人だかりがして・・・」
「ハイみんな並んで!点呼を取ります」
いつの間にやら担任の九川先生までいる。
「先生。何があったんですか?」
「あら月里さん。知らないの?なんだか怪獣が出たとかで校庭に避難しなくちゃならないのよ」
「怪獣?そんなのどこにも見当たりませんけど」
怪獣となれば瑠奈の出番だ。しかし周りを見渡しても、それらしきものは見当たらない。
「どうやらまだ遠くにいるみたいだけど、大事を取って早めに避難させたの。ほら、確か入学式のときも校舎が破壊されちゃって。でも校庭に避難したおかげで怪我人が出なかったでしょ」
それって私がドジって校舎内で変身して全壊させちゃった事だわ。それよりも早くどこかに隠れて変身しないと。携帯電話、携帯電話と・・・あっ!いけない!私の携帯電話、教室に置きっぱなしだったんだ。何とかして取りに行かないと・・・
「あのう・・・先生。教室に大事なものを忘れてきちゃったんですが取りに行ってもよろしいでしょうか?」
「大事なもの?何を忘れたの?」
「えっ・・・それは・・・」
まさか携帯電話とは言えないし・・・
「お、お財布・・・」
「お財布?だめよ。お金より命が大事でしょ」
あっさり却下されてしまった。教師として以前に校舎が破壊されたことが記憶があるのでここで許すわけにはできなかった。もっとも目の前の月里瑠奈が巨大変身して壊した事はカムフラージュで記憶が無いので怪獣がやったと信じ込んでいるのだが・・・
 その時、何やら上級生の方の列が騒がしくなった。
「何かしら?ちょっと見てくるわ」
九川先生がそちらに向かおうとした。
 これはチャンスだわ。この隙に・・・
そう思って瑠奈は駆け出そうとしたが
「月里さん。だめよ!この隙に抜け出そうとしちゃ」
ああっ、どうしよう。九川先生しっかりこちを見ている。
どうしたものか考えているうちに九川先生が戻って来た。
「何かあったんですか?」
「それが1人行方不明らしくて、校舎や体育館を探し回ったんだけど見当たらないの」
「行方不明?」
「そう、あなたと部活が同じ小東久美子さんなんだけど。月里さん、心当たり無い?」
「いえ、無いですけど・・・」
小東先輩。こんな時どこ行っちゃったんだろう・・・そうだわ!
「先生!小東先輩のいそうな所思いつきました」
「それはどこ?」
「先生にはちょっとわかりにくい所なので私が代わりに行ってきます」
「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
先生がそう言い終わるか否かのうちに瑠奈は駆け出して校舎内に消えてしまった。

***

「作戦成功!でもそうは言ったものの小東先輩、どこへ行ちゃったんだろう?検討つかないわ。あっ、それよりもまずは教室に戻って携帯電話を取って来てこないと」
階段を駆け上がって教室に入ると、聞こえる聞こえる。呼び出し音が鳴り響いている。
瑠奈の机の横にかかっている鞄の中から携帯電話を取り出してディスプレーを見てみると
『12:58 N 4km』
と表示されていた。
北4キロってことは校庭とは逆側だわ。道理で怪獣が見えなかったわけだ。早く小東先輩を見つけて、それから隠れて変身しないと。
瑠奈は急いで教室を飛び出した。
「あっ!わすれてた」
出入口のところで気付いて、急いで引き返し再び鞄の中を探し出した。
「うーん最近見ていなかったから。でも、確か底の方に入れてあるはず・・・えっーと、あった!」
取り出したのは小さな箱だ。
「うん。これでよしっ」
箱から取り出した指輪を指にはめた。以前と同じく宝石がきらりと輝いた。
「さて、次は先輩を責任もって探さないと」
教室を飛び出し、誰もいない校舎内を走り回って探してみたけれど見当たらない。
「はあ、はあ、はあ・・・一体どこにいったのかしら・・・あっ!」
そのときグラッと建物が揺れた。地震かしら?いやこの揺れ方は違う。怪獣が近くまできて暴れているんだわ。でもどの辺にいるのだろう?北側の窓からは体育館があるからよく見えないわ。
 仕方なく瑠奈は見えるところまで階段を駆けあがった。
「はあ・・・ここもだめかあ」
最上階の5階まで上がっても体育館の屋根がかかってよく見えない。
「最後は屋上か・・・」
屋上への階段を駆け上がって『非常時以外生徒立入禁止』とかかれたドアの前まできた。
「非常時なんだから入っちゃうわよ」
ドアノブを回して重い鉄の扉を開けたその時
「あーっ!こんなところに」
瑠奈が見たものは今まで散々探し回っていた小東久美子だった。でも何でこんな所にいるのかしら?
「もう!小東先輩・・・」
そう言いかけたとき言葉が詰まった。あれ?何か変だ。小東先輩は制服ではなくレオタードを着ている。手にはリボンを持ち、傍らにおいてあるラジカセから流れる曲にあわせて動き回っている。これは・・・。そう、練習試合の時のリボン演技だわ。リボンをくるくる回しながら回転やジャンプが綺麗に決まっている。これは以前の小東先輩の演技とはまったく違う。別人のように上手くなっている。これじゃ私より上手いかも?
瑠奈は小東久美子に声をかけるのを忘れてそのまま見入ってしまった。
 そしていよいよ最終段階。後転をしてから両手にリボンを持つポーズを決めれば終わりだ。小東久美子は華麗に後転を決めた。
「うわっ!先輩。すごい!」
瑠奈は拍手とともに歓声を上げた。
「きゃあ!」
その時、校舎が今までになく大きく揺れ、小東久美子は悲鳴をあげて倒れこんだ。この揺れで着地に失敗したようだった。
「大丈夫ですか!」
瑠奈が駆け寄った。
「あれ?月里さん。いつの間に・・・」
小東久美子は瑠奈の顔を見て一瞬驚いた顔をしたが、再び苦しそうな顔に戻った。
「どうやら足を挫いたみたいなの」
小東久美子は両足首をさすりながら言った。瑠奈も小東久美子の足首をさすった。
「ありがとう。でもなんで月里さんがここにいるの?」
「小東先輩のこと探し回っていたんです。行方不明だって言うから。校舎中を探し回ってやっと屋上で見つけたところなんです」
「私が行方不明?」
「そうです。全校生徒は校庭に避難しています」
「避難?何で避難するの。もしかして火事?」
「違いますよ。怪獣が出現したんです」
「怪獣?」
ここで瑠奈は屋上に来た最初の理由を思い出した。
「あっ!あれです」
立ち上がって北の方角を見た。遠くに怪獣が暴れているのが見える。
「きゃああっ!こ、こっちに向かってくるわよ」
小東久美子が叫んだ。
「先輩。早く校庭に逃げましょう。立てますか?」
「大丈夫・・・痛い!ちょっと無理みたいね・・・」
立ち上がろうとしたものの再び座り込んでしまった。
「私の肩につかまって!」
瑠奈が小東久美子の腕を肩にまわして立ち上がった。
「ごめんなさいね。あなたに助けてもらちゃって」
「いいですよそんな事。あっ、ここから階段ですから気をつけてください」
手摺りに寄りかかりながら1段ずつ慎重に降りていった。でも階段から転げ落ちないようにゆっくりと降りていくので時間がかかる。やっとのことで踊り場に着いた。
「はあはあ・・・。もう少しです頑張ってください」
瑠奈は汗びっしょりだ。空いたほう手で体操服の襟のところをパタパタとやって風を送りこんだ。
「きゃあ!」
建物が揺れた。さっきより大きい。怪獣がさらに近づいたのだろう。
「月里さん。もういいから・・・私の事はいいから早く逃げて」
「何を言うんですか。さあもう少しです」
再び階段を降り始めた。一段、一段ゆっくりと降りていき、最後のもう一段で5階というところで、
「きゃああ!」
再び建物が揺れ、2人は階段を踏み外してそのまま5階の床に倒れこんでしまった。
「痛たぁぃ・・・先輩。大丈夫ですか?」
瑠奈は起き上がって小東久美子を抱きかかえた。
「月里さん。このままだと2人とも瓦礫の下敷きになるかもしれない。お願いだから先に行って」
「そんなことは・・・」
でも、ここまで降りるのにこれだけ時間がかかったのだから1階までにはあと、どれだけの時間がかかるだろうか。それに途中で階段の上の方から転げ落ちるかも知れない。そうしたら・・・そう考えるとこのまま2人で階段を降りて行くのは得策ではないのかもしれない。
「わかりました。私は急いで降りて行って助けを呼んできます。待っててください、必ず助けに来ますから」
そう言うと瑠奈は駆け足で階段を降りていった。

***

 小東久美子は月里瑠奈の階段を駆け下りる音がだんだん遠ざかっていくのを聞いていた。
「間に合うかしら」
することも無く、5階の廊下の壁に寄りかかりながら窓の外を眺めていた。窓から見えるのは隣に建つ体育館の屋根とその上に広がる青空だけだ。確か怪獣はこちらの方角に見えたから、襲ってくるとしたらまず体育館を破壊して、それから校舎の順。いや、同時かもしれない。そうしたら・・・私は瓦礫の下敷きになって命はまず助からないわね。こんな事なになるなら前回の事、謝っておくんだった。月里さんに命懸けでここまで助けてもらって・・・彼女に悪い事したわ。
建物の揺れの頻度がだんだん多くなり、そのたびに窓がミシミシと音を立てる。その音を聞くごとに小東久美子の恐怖が高まっていく。
「こうなったのも私がすべて悪いんだわ」
 そうしてしばらく眺めていた窓の外の景色に大きな変化が起きた。今まで日の光を浴びていた外の景色が急に陰って薄暗くなったのだ。今日は雲ひとつ無い晴天なのに・・・
「横から来たか・・・」
小東久美子はそう悟った。そして次の瞬間、横から来た何かに遮られて窓の外は一切何も見えなくなった。怪獣に校舎を取り囲まれてしまったに違いない。小東久美子は恐怖で悲鳴も上げられない。
「もうだめ・・・わたし・・・死ぬのね」
しかし、しばらく経っても何も起こらない。ただ南側の運動場の方からは悲鳴とも歓声とも聞こえる生徒たちの声がいつまでも止まずに聞こてくる。そして窓の外を覆っていたものがゆっくりと下に動き出した。さっきまでの薄いピンク色が濃紺に。そして今度は太陽の光を反射して眩しいほどの白に変わり、再び薄いピンク色になった。
「きゃあーっ!!」
巨大な目がこっちを見ている。あっ!私と目が合った。その巨大な瞳に私が映っているのがはっきりわかる。それぐらい近い距離だ。
心臓が止まるかと思うほどの恐怖感が襲った。しかしそれだけでは終らない。開けっぱなしだった窓から大きな柱みたいなのが私めがけて入ってきた。逃げようとしても足は痛くて歩けない、なんとか両手で床を這いなが、そばの教室の奥の方へと逃げ込もうとした。
「や、やめて・・・お願い・・・」
教室入り口から数歩入ったところで、不意に両脇腹を挟まれた。後ろから追ってきた巨大な柱が私を挟み込んだのだった。もう恐怖で声にならない。私の体はゆっくりと持ち上げられて床から離れた。そのまま後ろを向いた状態で窓の外に出された。下を見ると・・・目のくらむ高さだ。ここから落ちたら確実に死ぬ。もう下手に抵抗しない方がいいわね。でも、これからどうなるのかしら?摘み上げられたという事は・・・私、怪獣に食べられちゃうとか・・・
 小東久美子の頭の中ではそんなことが巡っていた。

「小東先輩!」
「???」
しゃ、しゃべった。怪獣がしゃべった。それも私の名前を言っている。でもこの声、どこかで聞いた事が・・・
小東久美子はここで初めて声のする後ろを振り返った。
「う、嘘でしょ・・・?!」
目に映ったのは見慣れた顔だった。ただし、いつものとは大きく変わっていた。
「月里さん・・・どうして・・・」
さっきまで私の目の前にいた月里さんがこんなに大きくなっている。私の周りをよく見てみると、私を掴んでいたのは月里さんの親指と人差し指だ。でもどうして、どうしてこんな事が・・・?
「ごめんなさいね、先輩。お待たせしちゃって。今、下ろしますから。よいしょっと」
そう言うと瑠奈は校舎を跨いで片足を校庭の空いている所に置き、小東久美子をゆっくりと校庭に下ろした。
「九川先生。ちゃんと小東先輩を見つけてきました。足首を怪我しているので処置の方よろしくお願いします」
「えっ・・・・・・はぁ、はぃ・・・・」
担任の九川法子は上一面に覆う教え子の巨大な月里瑠奈の顔に呆気にとられ、そう答えるのがやっとだった。

***

「ふう、一時はどうなるかと思ったけど、小東先輩も助けられたし、これで一件落着ね。今回は裏庭で変身したけれど、みんな校庭に避難しているから見られていないはず。それにしても騒がしいわねえ」
校庭の方を見ると、みんながこちらを見てさっきから歓声を上げている。そりゃそうだろう。いきなり校舎の向こう側から、ぬぅーっと巨大な体操服姿の美少女が出現したのだから。
「さて、怪獣を倒しに・・・・ん?ちょ、ちょっと!や、やめて!!」
何かがお尻を触っている。何なの一体!!
「きゃああああ!!」
お尻を見てみると触手らしきものがブルマの上から撫で回している。
「この変態!!」
視線を触手に沿って辿っていくと
「いやああん!!」
体育館の向こう側に怪獣がいた。よく見ると緑色の巨大なイカだわ。こんなやつはきっと・・・
「でへへへ!巨大娘のブルマ姿に出会えるとはラッキーだな!でへへへ」
やっぱり風紀上問題なやつだ!
「この変態スケベ宇宙人!今回はシリアスなストーリーだと思っていたのに。これじゃあ前半部分が台無しじゃない!!」
「でへへ。そんな事どうでもいいではないか。でへへへへっ」
「よくないわよ!」
「それにスケベはワシだけじゃないぞ。ほれ下を見てみろ」
「下?・・・あーっ!!」
下を見てみると、いつの間にやら校舎の屋上には上を見上げている男性教師たちが集まっている。
 そう、いま瑠奈は片足を裏庭。もう一方を校庭に置いて校舎を跨っている格好となっているのだ。屋上からは開脚した巨大なブルマが至近距離に見え、いい匂いと熱気が感じられる。さらに裾からは上半身が覗けて、臍とブラジャーがちらちらと見える。
「でへへ。こいつらも期待してるようだしな」
瑠奈は腰を屈んで屋上の教師達に顔を近づけた。
「もう、先生たち。教育者でしょ!そんな事して恥ずかしくないんですか!」
屋上の教師たちは目の前に巨大な美少女の顔が近づいてきた。その迫力に圧倒され興奮と恐怖で言葉も出ない。
「い、いや・・・じ、実は」
その中の一人の教師が何とか言葉が発した。
「私たちも行方不明の小東久美子君を探しているところなんだ・・・」
「そ、そうですか。ごめんなさい疑っちゃって。小東先輩なら私が助けて校庭に運びましたからもう大丈夫です」
瑠奈はホッとして顔を屋上から離した。
「ほら見なさい。変態はあなただけよ!」
しかし瑠奈には教師たちのズボンが膨らんでいる意味はわからなかった。
「何を言うか。おまえは男というものを良く知らぬやつだな。それならこれでどうだ!でへへへ」
シュルシュルッと触手が伸び、裾から入り込んで体操服とブルマの中をまさぐり出した。
「いやぁん!やめてええぇ!!」
「でへへへ。じっくりいたぶってやろう。でへへへ」
体操服は捲れ上がり、ブルマはずれ下がってしまった。これを真下から直撃していた屋上の教師たちはたまりません。あそこはもう爆発寸前です。
「はあ、はあ、はあああん・・・お願い・・・やめてぇ!!」
そう言いながらも胸とあそこを揉まれてすっかり気持ちよくなってしまった。屋上ではあそこの匂いが漂ってきた。
早く反撃しなきゃ!でも下手に動けないわ。この状態で動いたら、こないだ私が壊して建て直したばかりの校舎をまた壊してしまうもの・・・
 ふと校庭の光景が目に入った。そこにいる全校生徒が固唾を飲んで私を見ている。恥ずかしくて顔を真っ赤にしている子もいるわ。いやっ!見ないで、恥ずかしい。そんなに見ないで、やめて。お願いだから・・・やめて・・・やめて・・・
「やめてーーーーー!」
羞恥心が爆発し、大声を張り上げて瑠奈の体をまさぐっていた触手を一気に掴んで思いっきり投げ飛ばした。
ひゅううん、どどどおおおん!!
怪獣は校庭を飛び越えて向こうの方へ飛んでいった。
「はあはあはあ・・・はぁ・・・」
自分でも信じられない。こんなに自分が力強かったとは・・・これが火事場の馬鹿力と言うやつかしら。
校庭の方を見るとみんなが「やったー!」とか歓声を上げながら拍手している。
「いやどうも。みんなありがとう!」
こうして歓声を上げながら拍手されるのはとても気分がいいわ。こんな気分になれたのは久しぶり。ウルトラヒロイン冥利に尽きるわ。
「ん?」
瑠奈が校庭の生徒たちに手を振っていると、向こうのビルの陰からさっきの怪獣が再び立ち上がった。
「しまった!いい気になって怪獣にトドメを刺すの忘れてた。ああ・・・どうしてこう私はドジなの」
瑠奈はそっと裏庭においていた片足を校舎を壊さないよう細心の注意を払って校庭に置き、捲くれ上がった体操服とずれ下がったブルマを直した。
「みなさん。私もう一度、怪獣と戦って倒してきます。それじゃ」
見下ろした生徒たちに、そう言い終わると両手を上に挙げ飛び上がった。そして空中で一回転して怪獣に急降下して体当たりした。
「この変態怪獣。覚悟しなさい!コノコノ!」
うつ伏せに倒れたイカのような怪獣に馬乗りになってパンチの嵐を見舞ってやった。でも相手は堪えてないみたいだ。
「でへへへ。そんなもん効かんぞ」
軟体動物系の怪獣にパンチなんて全然効かないのだ。それどころか
「でへへ。巨大女子高生のブルマが拝めるとは・・・でへへへへっ」
怪獣の目の前に瑠奈のブルマがあるのだ。完全に目はいってしまっている。これじゃ逆効果だ。そうこうしているうちに数本の触手が瑠奈の太ももに伸びてきた。
「うわっ!」
瑠奈は怪獣から急いで離れた。
「何なのコイツ。変態にも程があるわ。それにしても何でブルマなんかがいいんだろう?」
ふと自分の穿いているブルマを見てみる。
「こんなんだったら制服でも着てくれば良かった。あっ、そうだ!」
指輪についた宝石がきらりと光った。
「この指輪を試す時がきたわ。さっそく制服に替えてと・・・いや、制服なんていつも着ているからつまらない。もっと違うのにしよっと・・・」
瑠奈の顔が微笑んだ。もう完全に自分の世界に入っている。
「でへへへ。もう攻撃は終わりか?それだったらこっちから行くぞ」
触手が瑠奈に向かって伸びてきた。
「ちょっと待って!」
瑠奈がそう言うと素直にも触手の動きが止まった。
「き〜めた!」
やっぱり女の子憧れの服装はあれよねえ。
「でへ?」
怪獣は呆気に取られるばかりだ。
瑠奈は両手を組んで顔の前に持っていき、目を瞑って祈った。
「お願い・・・・」
すると指輪の宝石から光があふれ瑠奈を包んだ。校庭の生徒たちは眩しさのため手で目を覆い隠した。

***

どれくらい時間が経っただろか、光が消えゆっくりと目を開けてみた。
「成功したのかな?・・・うわっ!やったあ!!」
急いでそばに建っているミラーガラス張りの高層ビルの前に行って全身を映してみた。
「うわぁ、綺麗!」
そこに映し出されたのは純白のウエディングドレスに身を包んだ自分だった。自分でも惚れ惚れするぐらい綺麗だ。
「うわぁー!」
校庭の方から溜息とも歓声とも聞こえろ声が聞こえてきた。瑠奈は校庭の生徒達の方を向いて聞いてみた。
「どお、似合う?」
もう、生徒たちは言葉が無い。目の前に純白のウエディングドレスに身を包んだ巨大な瑠奈が立っているのだ。『ウエディングドレス姿の巨大娘』これは新しいジャンルかもしれない。
「あ、忘れてた。見とれている場合じゃないわ。とっとと怪獣をやっつけないと」
怪獣の方へ向きなおし、両手でスカートの裾を持って向かった。
「覚悟しなさい!」
瑠奈の蹴りが怪獣に入った・・・はずだったが足が全く上がらない。
「何やってんだおまえ」
「はあはあはあ・・・これじゃあ動きにくくって仕方が無いわ。やっぱり動きやすい服装じゃないと戦えないわね」
ウエディングドレスに未練を残しながらも、しぶしぶどんな服にしようかと考えた。
「動きやすい服、動きやすい服と・・・そうだ!」
瑠奈は再び光に包まれた。

「似合うかしら?」
再びガラス張りの高層ビルの前に立ってみた。
「うーん。カッコイイ!」
鏡に映ったのはスチュワーデスの制服姿だ。おおっ、巨大なスッチーだ。これまた新しい巨大娘のジャンルかも・・・
「アテーションプリーズ。当機はまもなく離陸しまーす。なーんちって」
夏休みに飛行機に乗ったときスチュワーデスがキビキビ働いていたからこれなら動きやすいはずだわ。もっとも飛行機は飛ばなかったし、私を止めようとしたスチュワーデスさんには怪我させちゃったけどね。
「さあいくわよ!」
瑠奈は怪獣にハイキックをお見舞いしてやった。が
「きゃあ!」
タイトスカートが邪魔で足が上手く上がらない。
「いててっ・・・」
バランスがとれずにそのままズドンと尻餅をついてしまった。
「でへへ!こんなに若くて可愛いスッチーなんていないからな。こりゃたまらんな」
そりゃそうだ。16歳のスッチーなんているはずがない。
「それにおまえ結構綺麗な脚してるじゃないか。可愛がってやるぞ!でへへへへっ」
触手が瑠奈の脚に絡み付いてきた。
「このスケベ変態!」
瑠奈は怪獣を睨み付けた。
「でへへ、何とでも言え・・うぎゅ」
瑠奈は肩から掛けていたハンドバックを思いっきり怪獣にぶつけてやった。ハンドバックの直撃をもろに顔に受けた怪獣は一瞬ノビて、脚に絡んでいた触手も力が緩んだ。
「もお頭にきた。こんな風紀に反する奴はちゃんと取り締まってもらわないと困るわ。そうだ私が逮捕しちゃおっと」
立ちあがり、指輪に願いを掛けた。
「婦警さんの制服をお願い・・・」
瑠奈は光に包まれた。

「成功したの・・・あれ?」
目を開けると別の制服を着ていた。が、服を見渡してみたけれど何か変だ。
「なんか違うわね。婦警さんって、こんな制服じゃないわよ。言い方が間違ったかしら?なんて言ったら良いかしら。うーん、今までの服は英語だったから英語じゃないと願いを聞いてもらえないのかな?それじゃポリスの制服を願い・・・」
再び光に包まれた。

「成功・・・あれ、あれれ?」
またなんか変だ。こんな警察の服なんてあるの?上着は水色のビニールみたいな生地だ。それに足元がやたらスースーする。
「いやん!何これ!!」
スカートを見るとやたら短い。こんなミニスカートはいている警官なんて見たこと無いわ。いったいどこの警察の制服よ!
被っていた帽子を取って見てみると記章には『MINISUKA POLICE』とあった。
「なによミニスカポリスって!なんか警察っていうより逆に風紀上良くなさそう!」
どうやらこの指輪にはクセがありそうだ。
「お願いの言い方が悪かったのかな。ちゃんと言わないといけないみたいね。えーっと・・・警視庁の女性警官の制服をお願い・・・」
またまた光に包まれた。

「やった!これこれ、この制服よ!」
今まで2回も思い通りの服にならなかったので喜びはひとしおだ。瑠奈は『警視庁』の腕章も輝かしい制服に身を包んでいた。
「でもこれは何?」
手には白い棒を握っていた。もしかしてこれって・・・
「やっぱり・・・」
足元の道路に棒の先を当ててみると白い線が引けた。握っていたのは先っぽにチョークのついた棒だった。
「これで駐車違反の車のタイヤに書きこめって言うの?巨大化してこんなものなんの役に立つのよ!まあいいわ、ちゃんと警察官の制服になれたのだから。さあエロ怪獣、覚悟しなさい。あなたを地球侵略と強制猥褻で逮捕します」
「でへへ、今度は婦警か。巨大な婦警は結構多いジャンルだからな。しかし、未だにエロシーンは無いから、ここでわしが初めて脱がしてやろう。でへへへっ!」
このエロ怪獣。ぜんぜん懲りていない。それなら実力で逮捕しちゃうわよ。
しかし瑠奈の動き出す前に触手の方が動き早い。シュルルっと触手が伸びてきて両方の足元に絡みついた。
「ちょっとやめてよ!公務執行妨害よ!」
「何が公務執行妨害だ!ニセ警官のくせに」
触手がニュルニュルと上の方へ伸びてきた。
「もお、止めなさい!!」
瑠奈は思わず持っていた棒で怪獣の頭をボコンボコン思いっきり殴ってやった。
「コノコノ、コノッ!」
どれくらい叩きつづけただろうか?気付いたときには怪獣は完全にノビていた。
「はあはあ・・・以外とこの棒も役に立つのね。さて今のうちに逮捕しちゃおっと、えーっと・・・」
瑠奈はハンドバックを開けて手錠を取り出し、そっと怪獣のそばによった。
「現行犯で逮捕します・・・・ってどこに手錠を掛ければいいの?」
あるのは触手だけだ。触手なんかに手錠をかけても仕方が無い。
「うーん。困ったわねえ・・・うわあああああ!!」
そう考え込んでいるうちにガバッと怪獣が起きあがった。瑠奈は驚いて持っていた手錠を放り投げて逃げ出した。
「でへへ。そんな攻撃が軟体動物系に効くと思っているのか?今度はこちらから攻撃するぞ」
全触手が瑠奈に向かってきた。
「うわあああ!何か、何か武器は無いの?」
ハンドバックの中をガサゴソと探し始めた。
「何これ・・・『駐車違反』。こんなの何の役に立つのよ!」
ポイッと、駐車違反の車につけるオレンジ色の札を投げ捨てた。落ちた札は瑠奈の足元に止まっていた路上駐車の車を押しつぶした。
「これは何?警察手帳か。これも役に立たないわ。えーっと・・・あっ、あったあった!」
触手はもう足元まで伸びてきている。
「動くなっ!」
瑠奈のその声と同時に触手の動きが止まった。
「や、やめろ。こっちに向けるな!」
怪獣は完全にビビッている。
「動くと撃つわよ!」
瑠奈はハンドバックから取り出した拳銃を両手で構えた。どうしてそんなものが婦警のハンドバックに入っているかは聞かないでほしい。
「ちょ、ちょっと。おまえ使い方を知っているのか?」
「そんなの知らないわよ。でも大丈夫、確か引き金を引いて・・・」
「うわ、撃つな撃つな!」
パーン!
乾いた銃声を発した。
「きゃあ、撃っちゃった・・・」
命中したのかな?と、見ると怪獣は脂汗(?)を流しているが倒れていない。当たらなかったみたいね。と、遠くの高層ビルに穴が開いていて黒煙を出してる。
「残念。外れちゃったわ。今度こそ・・・」
「うわ、やめろ。練習もしたことが無い奴が撃てるはずが無い!」
「黙りなさーい!」
パン!パン!パン・・・・・
立て続けに引き金を引いた。でも目の前の怪獣は倒れない。
「もおっ、悔しいっ!あれ?あれれ?」
引き金をいくら引いてもカチカチいうだけだ。
「でへへ。弾切れみたいだな。それならこっちから行くぞ」
「え?もう弾切れ?一発も当たらなかったの?」
再び触手が瑠奈の方に向かった。
「弾切れだったら予備の弾がどこかに・・・あ、そんな事しなくても!」
拳銃を放り投げて両手をクロスした。
「エロ怪獣。覚悟っ!・・・あれ?」
おかしい。手がクロスできない。動かないのだ。
「うわあっ。なんで!なんで私が逮捕されなきゃならないの?」
手首にはいつの間にやら手錠がかかっていた。
「でへへ。さっきおまえが落とした手錠をはめたのだ」
わずかの差で瑠奈の光線技より触手の手錠掛けの方が早かった。
「段々手首が締まってくるぅ!」
ガチャガチャと手首を動かすたびに手錠が締まってくる。これじゃ光線技なんて、とてもじゃないけどできないわ!
「でへへ、とらわれの身の婦警。これで思う存分楽しめるぞ!」
怪獣が瑠奈に近づき瑠奈のスカートの中に触手を入れてきた。
「止めなさい。この変態宇宙人!」
それでも瑠奈は怪獣に蹴りを入れて抵抗した。
「きゃああ!」
しかし両手に手錠を掛けられてはバランスが取れない。片足を挙げたまま後ろに倒れてしまった。
「痛てっ!」
「でへへ最後まで抵抗するとはなかなかだな。しかしこの足が悪さをするならこうしてと」
仰向けに寝かされたまま触手が両足を膝あたりまでグルグルに絡みついてしまった。もうこれでは完全に動けない。他の触手はスカートを捲し上げ、引き抜いた街路灯をパンティーの上からそっと割れ目に沿ってなでた。
「いや、やめ、やめてっ・・・・あはっ、あはああん!」
だめ、このままじゃ服を破られていつものパターンだわ。今ならまだ服を破かれていないから替えられるはず。
「さあて、次は上着を脱がせてと・・・ビリビリにシャツを破くのシチュエーションもいいな。でへへ」
破られたらもう服は替えられないわ。でも一体何の服にしよう?
そう思っているうちに上着に触手がかかった。だめ何の服にしたらいいの?わからない?わからない・・・・
「お願い、何でもいいから一番強い人の制服にして!」
そう願うと瑠奈は光に包まれた。

***

「でへへ。また服替えたのか。でもあまり変わり映えしないな」
変わり映えしない?ということはさっきと同じ警官の服って事かしら?そうよね、一番強い人の制服なんて滅茶苦茶なお願いだしね。
仰向けに寝かされている瑠奈にはどんな服を着ているのかわからなかった。
「でへへ、なかなかいい胸してるではないか?でへへ」
襟やら袖、裾から入り込んだ触手がバストを揉みしだいている。
「はあっん・・・お願いだからもう止めて・・・こんな手錠を掛けて襲うなんて卑怯だわ。正々堂々と戦いなさいよ!あはあっ・・・」
「やーだよーん。さーて、脱がしてウルトラヒロインの裸を拝ませてもらおうか」
「やめて、お願いだから、やめてーっ!」
瑠奈はもう半泣きだ。脱がされちゃうなんて入学式の時のバトルと変わらないわ。
「あーうるさい!往生際が悪いぞ。もう一気に力を入れてビリッと破いちゃおっと」
触手に一気に力が入ろうとしたそのときだった。
「セイカンケイサツです。そこの異星人。今すぐ退去しなさい!」
どこからか女の人の声がする。誰か来たの?八木先生が助けにきてくれたのかしら?でもセイカンケイサツって言ってるわ。セイカンケイサツって何?精悍警察?盛観警察?青函警察?でもここは東京よ。青森でも函館でも青函トンネルでもないわ。静観警察?こんなとき静かに見守られても困るわよ。まさか性感警察?いやよそんな警察。ミニスカポリスと同じくらい卑猥そうだわ。いったいセイカンケイサツって何の警察なの?
「でへへ、もう一人巨大婦警が来やがった。こんないいシーンで退去なんていやだよーん」
怪獣はセイカンケイサツに話している。
「それならば実力で排除します!」
「でへへ、おもしろい。それならまずはお前から脱がしてやろうか?でへへっ」
「そういう卑猥なのが一番嫌いよ!!」
「でへ、口だけは達者だな」
触手が伸びた。一方セイカンケイサツが持っていた、長くて白い警棒を振りかざした。
「?!」
呆気ない。怪獣は一発で倒されてしまった。
見ていた瑠奈は驚いた。強い、めちゃくちゃ強い。誰なのこの人?八木先生じゃないわ。
「ふん!口ほどでもないわね」
セイカンケイサツが瑠奈の方に歩いてきてた。
「大丈夫?」
そう言いながら屈んで手錠をはずしてくれた。
「はあ、はい・・・」
困惑しながら答える瑠奈の顔を微笑みながら覗き込んだ。
「あなた見かけない顔ね。卒業したての新人さんね」
「新人さん?」
誰なのこの人?でも、とりあえずはお礼を言っておかないと。
「ありがとうございました。お蔭で助かりました」
「いいのいいのお礼なんて。先輩が後輩を助けるのは当然の事よ」
「?」
先輩が後輩を助ける・・・何の事なの?こんな先輩、私知らないわよ。
そう思いながら瑠奈はゆっくり立ちあがった。
「上司には今日のこの事は黙っておくから。ただでさえ給料の少ないノンキャリが、査定に響いてお給料減らされたらかなわないもんね」
「はあ?」
「それにしても懐かしいわ。私もね、新人のころドジっちゃって査定に響きそうになってね・・・それじゃあ頑張ってね新人さん。私はこれで」
そう言い終わるとウインクしながら敬礼をした。瑠奈も真似してそっと右手を額のわきに挙げて敬礼を返した。
「ちょっと待ってください。あのお・・・」
「なあに?」
「私、あなたに会うの初めてだと思うんですけど」
「あら、そんな事いいじゃないの。同じ警察学校卒業なんだから先輩と後輩には変わりないわ」
「警察学校?」
警察学校って・・・私は白薔薇女学院高校の1年生よ。
横を向いて白薔薇女学院高校を見てみた。校庭の生徒達がこちらを見ている。
「あのぉ・・・私はあそこに見える白薔薇女学院高校の1年生なんですけど・・・あれ、あれれ?」
瑠奈が白薔薇女学院高校を指差してそう言いながら正面を向くと、そこには誰もいなかった。
「ちょっと!どこ行ったの?」
周りを見渡してみるが誰もいない。あれ、あそこにいるじゃない。
「あっ!」
そばによって見るとそれはさっきのミラーガラス張りの高層ビルだった。そこに映っているのは瑠奈自身だった。
「今、着ている制服。これはさっきのセイカンケイサツの婦警さんが着ていたのと同じ服だわ。いつ着替えたんだっけ・・・そうだ、一番強い人の制服って頼んだんだわ。確かに一番強い人の制服だったわね。待てよ、この制服。確か前にも・・・まず体操服からウエディングドレスに着替えて、それからスチュワーデスになって、あっ、その次の制服だ。確かあの時『婦警さん制服』って頼んだわね。うん、確かに婦警さんの制服だわ。それもめちゃくちゃ強い・・・あの婦警さん。私が同じ制服を着ていたから後輩と間違えたのね」
 おかしくて、クスッと笑いながら周りを見渡すと今回は建物は一つも壊れていない。八木先生の戦い方とは大違いだ。先生も強かったけど、これだけ対照的な巨大ヒロインも珍しいわね。

***

 変身を解いて、校庭に帰ってきた。服は体操服姿に戻っている。
でも今回は以前と違って誰も私のところにはやって来ない。そうよね、今回はあの婦警さんがやっつけたのだもの。
「月里さん。無事だった?」
でも真っ先に来てくれたのは九川先生だ。
「はぁ・・・はい」
「もう、心配ばかり掛けて。でも良かったわ、小東さんも無事だし」
そうだ小東先輩を忘れてた。
「先生。小東先輩は?」
「ほらあそこ」
先生が指差す方を見ると小東先輩が保健室常備の車椅子に乗って自ら車輪を回しながらやってきた。両足首には包帯が巻かれている。
「小東先輩。大丈夫ですか?」
「月里さん、大丈夫よ。応急処置はしたから後で病院に行くの」
「よかった」
「私、あなたに謝らなくちゃならないわ、それにお礼も」
「謝る?」
「そう。以前、新体操の得点の事で酷いこと言ってごめんなさい。本当は私、体操では後輩に負けた事無いのに新体操では負けて、とても悔しかったの。特に月里さんにはやってないリボン演技にまで高得点がついていたんで、つい気が立っちゃって・・・本当にごめんなさい。それにこんなダメ先輩である私を命懸けで屋上から助けてくれてありがとう」
「いえそんな。先輩が困っていたら後輩が助けるのが当然です。それにあの時は私も言い方が悪かったですし・・・」
なんだか私、さっき婦警さんに言われたような事を言っているわ。
「ところで先輩、屋上で何をやっていたんですか?」
「あれ・・・恥ずかしい事だけど、悔しくて得点表を受け取った日から誰にも知られないように屋上で新体操の練習を隠れてしていたの」
「そうだったんですか。でも私、そう言う先輩が努力するところって尊敬しちゃいます。それに新体操とても上手くなりましたよ」
それを聞いて小東先輩が瑠奈の両手を握り締めた。
「ありがとう。本当にありがとう。私はあなたのような後輩を持って幸せだわ。あれ?この指輪?」
瑠奈のはめている指輪に気付いた。
「良かった。この指輪しててくれたのね。これはあなたが八木先生からもらった大事な指輪よ。あなたがはめるのが一番似合うわ」
「先輩。ありがとう・・・」
なんだか涙がこぼれてくるわ。やっぱり最後はシリアスなストーリーで決まったわ。

「あっ、それでね。私、不思議なんだけど?」
突然、小東先輩が言い出した。
「は、はい・・・」
「私、思い出せないの。月里さんが助けを呼びに行ってからどうやって校庭までたどり着いたか。なんだか怪獣に掴まれたような記憶が微かにあるのだけど・・・」
やばい・・・せっかく今までいいシーンだったのに。
「い、いやそれは・・・私にも良くわかりません。気付いたら私も校庭にいて・・・」
「そお。まあいいわ。とにかく悪い怪獣もいなくなったし、なんだかすべて月里さんのおかげみたいね」
「いえそんな。今回は婦警さんの・・・」
「婦警さん?」
あっ、変なこと口走っちゃった!でも婦警さんもカムフラージュがかかっているのかな?
「いえこちらの話でして・・・あっ思い出した!!」
「どうしたの月里さん?いきなり大きな声で、何を思い出したの?」
「いえちょっと・・・こちらの事でして・・・」
思い出したわ。あの婦警さん。エメラルドグリーンのショートカットの髪に長く尖った耳。間違い無いわ、私いつも読んでるのよ。サインもらっておけば良かった!あーっ!もう手遅れだ。今ごろ気付くなんて、おかしいのは婦警さんでなくて私の方だわ!どうして私ってこうドジなんだろう!!
 それにしても2回連続で誰かに助けられるなんてウルトラヒロイン失格だわ。反省、反省っ!

9.『先輩』
−終−

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