ウルトラガール
4.『SPEED』

「ふぁ〜あ〜・・・ねむい・・・」
 7月に入り、いよいよ期末試験。日頃部活動ばかりに熱を入れていた瑠奈は連続連夜、一夜漬だ。その試験もあと1日を残すのみとなった。
「あーあ、こうなるんだったら日頃から勉強しておけば良かったわ。2学期からは改めよっと。」
いつも試験期間中に思うのだが、その通りになったためしがない。
そうこうしているうちに窓の外はうっすらと明るくなった。もう4時だ。
「ぎりぎりまで寝て3時間か。もういいや、寝ちゃお。」

***

 7時、瑠奈は眠いのを我慢しながら予定通りに家を出た。今日も快晴、暑くなりそうだ。いつもの駅で電車を降り、改札口のところで後ろから声を掛けられた。
「おはよう、瑠奈ちゃん。勉強した?」
北嶋菜穂ちゃんだ。前回以来、2人はすっかり仲良しになった。
「おはよう、菜穂ちゃん。今朝4時までやったんだけど途中でダウンしちゃった。」
「私も。ねえ、バスに乗って行かない? 空いてるから座れるわ。」
いつもは歩いて学校へ行くのだけれど、さすがに最終日は眠い。もちろん瑠奈は賛成した。乗ると他に乗客はおらず、2人は座ったと同時に喋りもせずにうとうとと寝てしまった。
 それからどれぐらい経っただろうか、どこかで聞いた事のあるメロディが流れた。何の曲だっけなぁ・・・夢うつつの状態でメロディにあわせて口ずさんでみた。
「Fly me to the moon and let me play among the stars〜 ん?あっ、これは!」
眠気も吹っ飛んだ。急いで携帯電話を取り出し、ディスプレーを見てみると、
『08:00 0km』
腕時計を見ると8時ちょうどだ。えっ、今すぐなの?0kmといったらここっていう事?
 まだバスは駅前に停車中だった。その時、駅の方から悲鳴とばきばきという不気味な破壊音が聞こえてきた。窓から見ると巨大な靴を履いた足がこちらに向かってくる。
「キャーツ!瑠奈ちゃん!こ、こっちに来る。た、助けて!」
このままだとバスごと踏み潰される。ここで瑠奈は直感がした。
『私を狙っているのかも!』
しかし、ここでは変身できない。かといってバスを降りて走って逃げても逃げ切れそうにない。
瑠奈は運転席に駆け寄った。
「運転手さん、早く出して・・・あっ!」
いつのまにか運転手は逃げ出してしまい、いなかった。
「仕方がない。私、運転するから。」
「えっ、だって!」
「ここから早く逃げないと踏み潰されるわ!」
瑠奈は運転席に座った。キーは付けっぱなしだった。運のいいことにオートマチック車だ。
「確か、こうやれば。」
キーをまわすとエンジンがかかった。次にハンドブレーキを下げ、シフトレバーを動かしてアクセルを踏んだ。
ガシャン!
バックして後ろに停車中のバスにぶつかった。
「わっ、やっちゃった!」
菜穂ちゃんが横にやってきた。
「だめよこれじゃ、レバーが『R』に入ってるわ。『D』に入れなきゃ。」
レバーを『D』に入れ、アクセルを踏んだ。今度は前に走り出した。
「でも瑠奈ちゃん、運転できるの?」
「高校生だもの、運転できるわけないでしょ。でもオートマチック車だから何とかなるわよ。」
とはいうものの狭い駅前通りを大型バスで運転するのは大変だ。それも全速力で走らなくては逃げられない。路上駐車中の車にぶつけ、それらのサイドミラーを折りながら走り抜ける。破片が車内に飛び込んでくる。
「瑠奈ちゃん、ちゃんと走って!」
「そうしたいんだけど、うまくいかなくて」
「それならせめてドアを閉めて!」
どのスイッチだろう?窓際のボタンを適当に操作した。
『ご利用くださいましてありがとうございます。このバスは〜』
案内テープが回り出した。
「違う、もっと手前のスイッチよ!『前ドア』って表示してある!」
今度はエア音と共にドアが閉まった。
「瑠奈ちゃん!今度は赤信号よ!」
駅前通りを抜けると交差点だ。運の悪いことに赤信号で車が数台、信号待ちしている。
「このままだと踏み潰される。突っ込むから掴まって!」
「そ、そんな、無理よ!」
反対車線に出て、思いっきりアクセルを踏み込む。案の定、交差点内に左右から車が入ってきた。
「キャーッ!」
菜穂ちゃんが悲鳴を上げたけど、ブレーキを踏むわけにいかない。ハンドル操作だけだ。左へ右へハンドルを切り、何とか交差点を抜けた。
「ふうっ、危なかった。」
一方、菜穂ちゃんは散々悲鳴を上げてたくせに後ろの交差点の方を見て、
「映画みたい!」
なんて呑気なことを言っている。確かにカーチェイスなんかでよくあるシーンだけど。
 瑠奈も恐る恐るサイドミラーを見てみると交差点で車が何重にも衝突している。そしてその後ろに巨大な足が見える。さっきは近すぎて見えなかったが、なぜだかスカートをはいている。それがこっちに向かってくる。
「瑠奈ちゃん!前、前、見て!」
 次は横断歩道があり、また信号が赤だ。そこに乳母車を押した女の人が横断している。
避けるためにまたハンドルを右に切り反対車線に出た。しかし今度は正面から対向車がやってきた。
「うわああ!」
今度は一気に左へハンドルを切った。が、勢いあまって歩道に乗り上げてしまい、八百屋の軒先の野菜を吹っ飛ばした。
「わああ、瑠奈ちゃん! 早く車道に戻るのよ!」
右にハンドルを切り、何とか車道に戻った。
「はあ、はあ、はあ・・・人を轢いてないよねえ?」
瑠奈が尋ねると菜穂は後ろを見ながら
「大丈夫みたいよ・・・でもさっきの怪獣がまだ追いかけてくるわ。」
それにしても何で怪獣がスカートをはいているんだろう? なんでなんで???
そんな事を考えていた時、前方に黄色い物が見えた。
「うわーっ、またなんでこんな時に!」
この先の横断歩道を黄色い帽子をかぶった小学生の一群が渡っている。校外学習なのか数百人はいる。
「きゃーっ!止めてーっ!」
菜穂が悲鳴をあげ、瑠奈は思いっきりブレーキを踏み込んだ。
「イテッ!」
運転席の横に立っていた菜穂は頭をフロントガラスにゴツンとぶつけた。
「・・・間に合った・・・」
何とか横断歩道の直前で止まれた。小学生達は何事も無いように友達とふざけながら渡っている。と、しばらくして一斉に蜘蛛の子を散らしたように逃げ出した。ん?何だろう、辺りが急に暗くなった。
「し、しまった!」
思いっきりアクセルを踏み込み急発進した。ふとサイドミラーを見ると、さっきバスのあったところに巨大な靴が振り下ろされている。
「いててて」
菜穂ちゃんが尻をさすりながらやってきた。急発進した時の衝撃で後ろの方に転んでしまったのだ。
「ごめん、大丈夫?」
「うん大丈夫だけど、いてててて・・・おでことお尻をぶつけちゃった。まったく交差点といい、乳母車といい、小学生といい、本当に映画みたいね。」
「まあ、確かによくあるベタベタの展開ね。」
「ほんとよね。瑠奈ちゃんもこの映画見た事あるんだ。」
「この映画?」
「爆弾を仕掛けられたバスが走り回る映画。」
「見たことないわ。どんな映画なの?」
「犯人が仕掛けた爆弾が速度を落とすと爆発するんで走り回るのよ。ヒロインが運転しててね、特殊部隊の警官が助けに来るの。」
「へえー」
瑠奈は思った。ウルトラヒロインが運転してる場合には誰が助けにくるんだろう?それに巨大な足と爆弾、どちらが恐いかな?と。
「で、ずっと街中を走りまわるの?」
「いや、途中から高速道路に逃げるの。」
「えっ?高速道路。」
「どうしたの。」
「ほら、あれ見て。」
前方に首都高速入口の標識と上り線渋滞中の電光表示板が見えた。
「下り線は空いてるのね。じゃあ右折するわ。」
右へ一気にハンドルを切り、首都高速入口に向かった。
「うわあっ!スピード落とさないと横転しちゃうわよ!」
「大丈夫よ、これくらい」
遠心力で車体が傾く。
「あわわ、右のタイヤが浮いてるわ!」
「もうちょっとよ、踏ん張ってて!」
何とか曲がり切る事が出来た。その先に料金所が見える。
「瑠奈ちゃん、どうするの?」
「緊急事態なんだから通過よ。女子高生がバスを運転しているなんて見つかったら引き摺り下ろされるわ。」
「確かにそうだけど・・・」
料金所を突破した。次は本線合流だ、サイドミラーも見ずに突入した。
「あー!瑠奈ちゃん!斜め後ろからトラックが! わー、ぶつかるっ!」
トラックは急ブレーキを掛け、後続車は玉突き衝突となった。
「あわわ・・・瑠奈ちゃんの運転、乱暴だわ。」
これぐらいの度胸がなきゃウルトラヒロインなんてやってられないわ。

 他の車を抜きまくり、ちらりとサイドミラーを見た。距離を稼いだおかげで怪獣がよく見える。が、そこに映ったのは女子高生。巨大な女子高生だ。それも白薔薇女学院高校の制服を着ている。誰だろう?顔のところがよく見えない。仕方が無いので運転席横の窓を開けて首を出して後ろを見た。
「東海林さん・・・」
クラスメイトの東海林美紀さんだ。それにしてもなんで巨大化したんだろう。ウルトラヒロインだったの?じゃないわ。敵がいないし破壊してるもの。私もするけど、あれはわざとじゃないわ。東海林さんはどう見ても故意に破壊している。それに何故だか私を狙っている。だからこっちに向かってくる。
その時、菜穂ちゃんの悲鳴がした。
「きゃーっ瑠奈ちゃん!」
ドーン!
「な、何が当たったんだろう?」
「柵みたいよ。」
「柵?それならまあいいか。で、その映画の続き、どうなるの?」
「それでね、高速道路を通って空港に逃げ込むの。」
「へぇー、空港に・・・と言う事は私達も羽田か成田まで逃げなきゃならないのかな?」
「その前に途中で高架橋が途切れててバスごとジャンプして飛び越えるんだけど・・・あっ!」
「どうしたの?」
「ど、ど、道路がない!高架橋が途切れてる!」
「えーっ!」
「工事中なのよ!だからさっき柵があったんだわ!道理で他に車がいない訳よ。」
「わあっ、ブレーキ、ブレーキ!」
「だめよ!このスピードだと止まり切れるかどうかわからない。映画みたいに全速力でジャンプするのよ。頭を低くして、もっとスピードだして!」
瑠奈は菜穂に言われた通りに、おもいっきりアクセルを踏み込んで頭を下げた。ちらっと前方を見ると道路はずっと先だ。
ここで瑠奈は気付いた。ここは前回、雨で滑って私が壊した所だ。あの時2回転んだから100m以上破壊されたはず。これじゃ飛び越えられない。あーっ・・・落ちる・・・

***

 次の瞬間、バスは手の中にあった。
「ふーっ、間に合った!」
瑠奈が両手でバスを大切に受け止めてスライディングした。胸の下で復旧工事の重機や足場が潰されていく。
 瑠奈はバスが落下しているときに開いていた窓から身を乗り出して携帯電話の通話ボタンを押したのだった。
「それにしても短縮登録と早押しの練習しておいて良かったわ。」
菜穂ちゃんはジャンプする時に頭を低くして目をつぶっていたから、変身するところは見られてないはず。
 その菜穂ちゃんは大丈夫かなとバスを覗き込むと、気を失って倒れている。バスを揺らしてみると気付いたみたいだ。顔を上げてこっちを見ている。あ、悲鳴を上げてまた倒れちゃった。今見た事は目が覚める頃には忘れているはずね。
 どこか安全なところにバスを置かなくっちゃ、と考えているときに、何かが私のお尻を踏んでいる。振り返ってみると東海林美紀が立っていた。バスを奪われないように瑠奈はとっさに足払いをした。すると東海林美紀はバランスを失い、今までバスが走ってきた高速道路の上に倒れ込んだ。高架橋はその下敷きになり崩壊していった。
 その隙に着地する予定の、この先の高架橋の上にバスを置いた。戻ってみると東海林美紀はゆっくりと立ち上がりこちらを睨み付けている。これはいつもの東海林さんと違う。マインドコントロールを誰かにかけられている様だ。
「目を覚まして!東海林さん、東海林美紀さん。いつもの東海林さんに戻って!」
瑠奈は東海林美紀の肩に両手をかけて揺さぶった。でも何の反応もない。仕方がない往復ビンタで目を覚まさせようとした。それでも反応がない。その時、東海林美紀が私の首を絞めてきた。
「く、苦しい・・・」
私を殺すつもりらしい。
瑠奈はすかさず手をクロスして光線をだそうとしたが、
『だめ、東海林さんを殺してしまうことになる。』
仕方がない。こうなったら、
「目を覚まして!」
思いっきり頬を引っ叩いた。東海林美紀は頬を押さえてその場に座り込んでしまった。
「これはきっと誰かが東海林さんを操っているんだわ。」
瑠奈がそう思った時、空の方から声がした。
「むはははは。気が付いたようだなウルトラガール。」
見ると空には円盤が浮かんでた。
「誰?」
「むははは、私はマニピュレート星人。侵略するのにウルトラガール、おまえが邪魔だ。そこでおまえを消すために通学途中の女子高生を巨大化して操らせてもらった。」
「そんなの卑怯よ、東海林さんは関係ないじゃない。正々堂々と私と戦いなさい!」
「私は暴力が嫌いでねえ、直接手を下すのが嫌だからこうやって女子高生を操っているんだよ。」
「あなたが操っているってことは、あなたを消せばいいのよ。これでもくらえ!」
瑠奈は手をクロスして光線をだした。
「そう簡単にいくかな。」
「痛い!」
急に髪の毛を引っ張られ、光線は円盤を外れた。東海林美紀が立ち上がり瑠奈の髪の毛を引っ張ったのだ。
「それでは巨大女子高生どうしのキャットファイトでも楽しませてもらおうか。むはははは」
東海林美紀は片手で瑠奈の髪を引っ張りながらもう一方の手で首を絞めてくる。瑠奈も東海林美紀の髪を引っ張りながら相手の顎を押さえた。でも東海林美紀は操られているためか痛い顔一つしない。それどころか首を絞める力が強くなり、ますます苦しくなる。東海林さんがこんな強い力を持っているはずが無い、これも操られているせいだわ。こうなったら奥の手だ。
「えいっ!」
東海林美紀の腹に蹴りを入れた。
「うっ・・・」
相当痛かったのか、お腹を抱えてうずくまってしまった。
「だ、大丈夫?東海林さん。ごめんなさい!やり過ぎちゃったみたい・・・」
瑠奈が東海林美紀の体を摩りながら覗き込むと、薄ら笑いを浮かべてちらりとこっちを見た。
「えっ?」
しまったと思った時には既に遅し、東海林美紀の強烈なパンチを食らって、前回、瑠奈が壊してしまい現在復旧工事中の大型スーパーに倒れ込んだ。組まれた鉄骨がいとも簡単に瑠奈の下敷きとなって崩れていく。前回と同じ中央部分に倒れ込んだので両側の鉄骨が、がらがらと瑠奈の体の上に崩れてくる。
「痛ててて・・・」
パンチを食らったところを摩りながら体の上に崩れてきた鉄骨を払いのけ、立ち上がろうとした時、東海林美紀が馬乗りになって襲ってきた。再び瑠奈の首をがっちりと絞めてきた。
「や、や、やめて・・・・・」
瑠奈の叫びは届かない。
「くっ、苦しい・・・」
首を絞める手を何とか解こうとするが力が強くて無理だ。そうこうするうちにだんだんと意識が遠くなってきた。ぼーっとしていくなかで・・・あっ、そうだ!
「・・・えいっ!」
前回と同じく両足で思いっきり蹴飛ばした。東海林美紀は宙を舞い、そのまま向かい側のビルを粉々にして倒れ込んだ。
「はー、はー、はー・・・」
瑠奈はゆっくりと立ち上がった。首を絞める手から逃れ、やっと息をすることが出来た。しかし一体これからどうしたらいいの? いつものように光線で倒すという訳にもいかないし・・・と考えていた時。倒れてる東海林美紀が何か手にしている。何だろうと目を凝らすと、いきなりそれを投げてきた。
「危ない!」
乗用車を瑠奈に向けて投げてきたのだ。何とか避けたものの乗用車は後方に落下して爆発炎上した。その時、
「うっ!」
爆発炎上を眺めている間に腹部に激痛が走り、弾みで前回は破壊されなかった大型スーパーの立体駐車場を背中で潰しながら倒れた。土煙がもうもうと立ち込める。
東海林美紀が今度はダンプカーを投げてきたのだった。それがまともに腹部に当たってしまった。
「ああああ・・・?・・・もうだめみたい・・・」
粉々となったコンクリートの瓦礫の中で何とか立とうとするが立てない。寝不足がたたりスタミナ切れとなったのだ。そうこうしているうちに土煙の向こうに何かが見え、ゆっくりとこちらに向かってくる。それが東海林美紀だとはっきり分かるまで少し時間がかかった。
「や、やめて・・・東海林さん・・・目を覚まして・・・」
瑠奈の叫びが効いたのか東海林美紀はそこで立ち止まった。しばらくすると今度は別の方向へ歩いて行った。
「やっとわかってくれたのね。」
しかし東海林美紀が向かったのは高架橋だった。そこには北嶋菜穂が乗っているバスがある。周囲でまともな形で残っている車はそのバスだけで、それを瑠奈への留めとして投げるつもりなのだ。
「だめ!そのバスには北嶋さんが乗っているのよ!」
瑠奈は腹を押さえながら、何とか立ち上がり、ふらふらとなって東海林美紀に駆け寄った。しかし東海林美紀はバスの目の前にすでに到達している。
「だめーっ!やめてー!」
もう間に合わない。東海林美紀がバスに手を掛けようとした時、円盤が空中で爆発した。
「ふっ、隙があったわね!マニピュレート星人。」
瑠奈が光線を発したのだ。それと同時に東海林美紀の動きはぴたりと止まった。

「東海林さん!」
瑠奈が近寄って声を掛けると、こちらを向いた。
「あっ、月里さん。あ、あれ、わ、わたし・・・どうしちゃったの?何をしてたの?」
「良かった!やっと気付いたのね。」
いつもの東海林さんに戻っている。しかしマインドコントロールが解けても巨大化はなおらないのか、瑠奈と同じ身長80mのままだ。
「それにしても月里さん。お腹押さえてどうしたの?苦しそうだけど痛いの?」
「え?いや、ちょ、ちょっと・・・イテテ、これくらい平気よ。」
「大丈夫? あれっ・・・それにしてもここはどこなの?なんで建物がこんなに小さいの?ミニチュアのテーマパークの中?それにしてもひどく壊れているわ。誰がやったのかしら。作った人に怒られちゃうわよ。」
それをしたのはあなたでしょうが。と瑠奈は突っ込みたくもなったが、憶えているはずもないし、そんな事を言っている場合じゃない。このままだと私の秘密もばれちゃう。
「あ、そのう、東海林さん。いろいろと事情がありまして。」
「事情?」
どう説明すればいいのか分からない。第一、どうやって東海林さんを元に戻せばいいの? うーん、こうなったら成功するかわからないけど、やってみるか。
「東海林さん。あれ見て。」
「え?・・・・あっ・・・」
東海林美紀が後ろを振り向いたときに、瑠奈が左右の人差し指をクロスさせ、首筋のところにそっと当てて軽く光線を発射させたのだった。倒れ込んだ東海林美紀を瑠奈はすかさず両手で支えた。
「スタンガン作戦、まずは成功ね。しばらく寝ててちょうだい。」
それから瑠奈は、東海林美紀を背負って飛び上がった。

***

 変身を解いた瑠奈は、東海林美紀を背負ってバスのところに戻って来た。予想どうりに東海林美紀も元の大きさに戻り、瑠奈の腹部の痛みも消えた。とりあえず東海林美紀を道端に寝かせて、バスへ向かった。
 バスの中を覗いてみると菜穂ちゃんはまだ気を失って倒れている。ドアを開けようとしたが開かない。ドアを叩いて起こそうとしたがそれもだめ。どうしよう・・・気付くまで待っているしかないのか・・・あっ、そうだわ!
瑠奈は運転席横の開いている窓から『前ドア』スイッチを探り当て、ドアを開けて中に入った。
「菜穂ちゃん、菜穂ちゃん。起きてよ!」
体を揺らすと、うんん。といいながらゆっくり目を開けた。
「キャーッ!」
「どうしたの?」
「はあっ、はあっ、はぁ。なんだ瑠奈ちゃんか・・・さっき、巨大な目玉がバスの中を覗いてたの。その目玉がまた出たかと思って驚いちゃった。」
それ、私が覗いた時の事だわ、相当驚かしちゃったみたいね。でもどうして忘れないのだろう。ショックが大きいと忘れないのかしら。
「とにかくバスから降りましょ。」

 バスから降りて向こう側の高架橋を見る。さっき東海林さんが倒れたから200mは離れている。
「あ、ジャンプ、成功したのね。やっぱり映画の通りだったわ。」
どう考えても200mの距離をバスが飛び越えられるわけがない。私が手で受け止めてここまで持って来たのよ。なんて言えないから、
「そ、そうみたいね。」
「ところで怪獣はどうなったの?」
「怪獣?あっ!」
東海林美紀の方を見ると、まだ気を失ってる。
「あれっ、東海林さんじゃない。どうしてこんな所に居るの。」
「え、あ、最初からここで寝てたみたい。」
どう考えても不自然だが、どうやら怪獣が東海林美紀だったことは上手い具合にカモフラージュが効いて忘れてしまった様だ。
菜穂ちゃんが傍らに行き、揺すって起こした。
「東海林さん。なんでこんな所で寝てるの?」
「あ、あれ北嶋さん。ここは?」
「首都高速の高架橋の上よ。」
「首都高速の高架橋?・・・なんで私、こんな所に・・・わからない。確か朝、家を出て・・・それから記憶が無いの。」
ところが瑠奈の顔を見たとたん、
「思い出したわ!ミニチュアの街の中で月里さんに会って・・・あれ?またその先が思い出せない・・・」
「ミニチュアの街?ははははは、夢見てたのね。」
菜穂ちゃんが笑い出した。
「そんなことないわ、ねえ月里さん。」
まずい。巨大化するとカモフラージュは効かないみたい・・・話題を変えないと
「ほら、もうこんな時間よ!早く学校へ行かなきゃ。」
「あっ、本当だ!早くしないと遅刻しちゃうわ。ほら東海林さん早く立って!急ぐわよ。」
「ま、待って!」
3人は非常口を探して高架橋から下り、急いで学校へ向かった。
 試験開始時刻にはギリギリ間に合った。しかし瑠奈は寝不足と疲労がたたって試験中に寝てしまった。菜穂ちゃんはずっとバスの中で気を失っていて睡眠不足を解消したし、東海林さんは操られている時には体力は消耗しないらしい。もっとも東海林さんは成績優秀だから徹夜なんかしてなかったろうし・・・結局、瑠奈だけが追試を受ける事となった。
「まったくウルトラヒロインも楽じゃないわ。」

 その追試も終わり菜穂ちゃんに教えてもらった映画をビデオで見た。
やっぱり巨大女子高生に追いかけられるより爆弾の方がいいなあと思った。何てったってカッコイイ警官が命懸けで助けに来てくれるんだもの。同じバスを運転していても、私には誰も助けに来てくれなかった。それにバスがジャンプするシーンは、どう見てもジャンプ台で飛んでるわね。距離も15mぐらいかしら。菜穂ちゃんの言う通りにしたら普通なら死んじゃうところだわ。あぶない、あぶない。

4.『SPEED』
−終−

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