ウルトラガール
2.『入学式』

 満開の桜の下を、期待を胸に新入生が校門をくぐる。そんな中に、うつむき加減に校門をくぐる生徒がいた。
「誰にもばれないとはいえ、本当に大丈夫なのかなあ。」
犯罪者のようにびくびくしながら歩いていたのは、ふとした事からウルトラヒロインになってしまった月里瑠奈である。

 入学式の間も、瑠奈はずっと下を向いていた。
校歌斉唱で式も終わり、やっとのことで教室に帰ってきた。しかし教室ではこれから新入生のためのガイダンスがあった。今日の予定の紙を見ると、ガイダンスの後にもまだ予定が待ち構えている。
「ふぁああ、これじゃなかなか帰れそうにないわ。」
ガイダンスが始まり担任の先生が説明をしだした、この間も瑠奈は下をむいたまま聞いていた。
 今日も雲一つない快晴、気温は20度を超えたあたり、さわやかな春の風が窓から吹き抜ける。
こんな状態でうつむき加減でいたら、ついウトウトとしてきた。寝ちゃいけないと思いつつ、この心地よさに負けてしまいそう。
 そんな感じでどれぐらい過ぎただろうか、突然、誰かの携帯電話のベルが鳴った。
「誰よ、いい気持ちだったのに。」
しかし誰も止めない。そうするうちに周りから自分に視線が集まってきた。どうも私の鞄の中から鳴っているようだ。瑠奈は急いで携帯を取りだして止め、ポケットにしまった。周りからの視線を感じ、ますます下をうつむく瑠奈。
「よりによってこんなときに鳴るなんて余計目立つじゃないの!それにしても、いつ着信音を変えたっけな。」
深く考えずに、またウトウト始めた。

 しばらくすると、今度は周りの生徒達が騒ぎ出した。
瑠奈は眠そうな顔で皆が指差している方を見た。すると突如として黄色い軟体動物系の巨大な宇宙人が現れ、建物を破壊している。
「わあー、タコみたい。火星人かしら?」
教室中は大パニック。担任の指示で、とりあえず校庭に避難する事になった。瑠奈も皆と一緒に逃げた。しかし途中で、
「そうだ私、ウルトラガールだったんだわ。私が戦わないで誰が戦うって言うのよ。」
とりあえず人目の着かないトイレに駆け込み、個室に入って鍵を閉めた。
「ふう、ここなら誰にも見られないわ。」
ポケットから携帯電話を取りだした。が、そのディスプレーには、
『14:24 SW 1km』
と、表示されていた。
「あっ、これってあの宇宙人の襲来地点と予定時刻のことだわ!」
腕時計を見ると2時30分。例の宇宙人が出現したのは南西の方角、ここから1kmぐらいの地点である。
「だからさっき携帯が鳴ったのね。道理で呼び出し音も違ったわけだ。着信音が『FLY ME TO THE MOON』てことは、このウルトラヒロイン、瑠奈に対する出動要請って事ね。ようしっ変身よっ!」
瑠奈は急いで番号を押し始めた。
「えーっと、確かこの番号ね。」
が、押し間違えてしまう。
「焦っちゃだめ、落ち着かなきゃ。」
そうはいっても、初めてなので上手くいかない。6回目でやっと正確に押し終えた。
「さあ、いくわよーっ!」
通話ボタンに親指をかけて、左手は腰に、携帯を持った右手は上に伸ばし、そして恐る恐る通話ボタンを押した。

***

 軽い貧血を感じた後、目を開けるとミニチュアセットの街が広がっていた。
「成功したの、かな?」
目線を下にやると、校庭に集まっていた小人、いや生徒達が一斉にこちらを向いている。
「やった!成功だわ。」
瑠奈は、この優越感がたまらなかった。
「さて、いくわよ。」
身長80mに変身した瑠奈にとっては20m先の宇宙人に向かおうとした、が、足元が変だ。恐る恐る足元を見てみると校舎が瓦礫になってる。
「あっ、しまった!ごめんなさーい!」
建物内で巨大化すれば破壊される事をすっかり忘れていたのだった。
瑠奈はそーっと瓦礫の中から足を抜いて、宇宙人に向かった。

 この間にも瑠奈のことにはまったく気付かず宇宙人が暴れていた。そこで瑠奈は初回同様、後方からいきなり飛び蹴りを試んだ。
しかし、宇宙人はタコのような軟体動物系。『ムニュ』て感触だけして、瑠奈だけ勢いあまってマンションに突っ込んでしまい一瞬で瓦礫にしてしまった。
「いてて、あーやっちゃたー!」
「何やってんだ。誰だ、お前は?」
この宇宙人は喋れるようだ。
こういう子供向けテレビ番組は見た事ないので、はて?怪獣て喋ったかしら?と瑠奈は疑問に思ったが、とりあえず瓦礫から立ち上がった。
「え、わたし?私は月里瑠奈。じゃなくって、ウルトラガールよ。暴れるのをやめなさい!火星人。」
いきなりドジってしまったので気取って答えてる余裕なんてなかった。
「火星人?」
「そうでしょ。そのタコみたいな格好は火星人て昔っから決まってるのよ。」
「火星人ではない。カーカ星人だ。」
「カーカ星人?同じようなもんじゃないのよ、それになんでオデコに『火』て書いてあるのよ。」
「こ、これは単なる模様だ。」
「模様?でも、あなたどっかで見たことあるのよねえ・・・。」
「そういうお前こそなんだ!ウルトラガールと言うものの、全然ウルトラヒロインに見えないぞ。ただのうすらでかい女子高生ではないか。そういえば以前のウルトラヒロインもうすらでかい青年宇宙協力隊の女子高生だったらしいが数年前に帰還したはず、その隙に征服してやろうと思ってたんだが・・・。という事はお前も母星で卒業するのに単位が足りなかった青年宇宙協力隊なんかか?」
「違うわよ、私はただの女子高生。地球人代表として特別に選ばれたの。」
特別に選ばれたとはいえ、他に候補者はいなかったような気がした。
「いくら特別に選ばれた女子高生とはいえ、制服着てたら正体ばれてしまうぞ。ま、制服姿の方がやりがいあるからその方がいいけど。」
「制服姿の方がやりがいあるって、それどういう意味? でも正体については大丈夫。今回から特別にカモフラージュされてばれないようになっているの。」
とはいっても、校庭の方を見ると、相変わらず生徒達が一斉にこちらを見いている。本当に大丈夫かしら。
「カモフラージュ!ていうことはモザイクがかかっている事だな。それじゃ遠慮せずにやらせてもらうぞ。」
カーカ星人の目付きが変わったと同時に一気に触手が伸びてきて瑠奈の両手、両足首に巻き付きいた。力が強くて身動きが取れない。
「あっ、しまった!」
そして別の触手がスカートの中に忍び込んできた。
「あ、あっ、ちょ、ちょっと、やめてー!子供番組でこんなのありなの?」
「触手系宇宙人の前にかわいい女子高生がいたら、やる事は決まってるだろ。お前そんな事も知らんのか。それに子供番組に触手系宇宙人が出てくるわけないだろ。」
「そんなの知らないわよ!」
瑠奈はまだ未成年、触手系宇宙人の定番なんて知っているわけがない。あの時18禁のページを見ておけばよかったのに。
今度は襟や裾から触手が忍び込んできて、胸をまさぐり始めた。
「うわっ!きしょく悪りーっ!でもなんか・・・あっ、ああああん!」
「ひひひ、いいぞいいぞ!」
「ああああん!あ、あなたが風紀上問題な宇宙人なのね!」
触手が両方の胸をまさぐり始めた。なんだかんだ文句を言ってきた瑠奈だが思わず喘ぎ声が出てしまう。
「さーてと、今日のところは一気にいっちゃおう!」
カーカ星人がそう言うと触手に一気に力が入り制服の上下とも風船が破裂したように千切れた。
 下着だけの格好にされてしまった瑠奈は、その時の衝撃でなんとか触手から逃れた。触手が這ったあとには触手から分泌される粘液のためにてかっている。下着も粘液のために透けてしまった。
手をクロスさせ、手先に力を入れた。しかし光線は出ない。
「えっ、まだロックかかってるの!」
さて、光線が使えないのなら、これからどのようにして戦おうかと考えているうちに、触手が瑠奈の体にぐるぐる巻きに巻き付いた。また身動きがとれなくなってしまった。
「捕まえたっと。これからが本番、本番!」
触手がそのまま瑠奈を商店街に倒し込んだ。この商店街は、さっき駅から高校へ歩いたところであるが瑠奈の体で一瞬に押し潰された。瑠奈は体中に触手が巻き付いて抵抗できない。カーカ星人はブラジャーとパンティーの中に触手を忍ばせて先ほどと同じく一気に力を入れ引き裂いた。瑠奈の全身はもう粘液でネバネバだ。
次に瑠奈の胸をもみしだきながら股間に触手を忍ばせた。
「あはっ!だめーっ、そこだけは!あーんっ!だめーっ。いきなり初回から、そんな、やめてー!」
「うるさいぞ、少し静かにしてろ!」
「静かにできるわけないでしょー!やめ・・・」
カーカ星人は瑠奈の口に触手を突っ込み、一方で股間に触手をまさぐらせた。穴という穴に触手を突っ込む触手系の定番である。
「ひひひひ、濡れちゃってるぞ。」
瑠奈は数時間前に歩いたところでこんなことをされているという屈辱とピンチだと言うのに快楽を感じていた。それでいて疲労も溜まってきた。
体中縛られ、光線も出せない。
「ひひひ、いただきまーす!」
触手を近づけたその時。
「ぎゃー!」
「ペッ、ペッ。」
瑠奈が口に入っていた触手を噛み切り吐いた。体を縛っていた触手の力が抜け何とか抜け出せた。
「よくもやってくれたわねー!」
手をクロスさせ、手先に力を入れた。
また光線がでなかったらどうしようと一瞬脳裏をかすめたが、手袋から放たれた光線がカーカ星人を貫いて爆発炎上した。

 ふっ、勝った。ウルトラガールの活躍で地球の平和も守られた。
瑠奈は自信満々である。さて飛んで帰らなきゃと空を仰いだ。が、服の感覚が全くない。えっ、と見ると靴と靴下以外身につけているものがない。その代わり全身粘液だらけだ。
「うわっ、気持ち悪りーっ!それにしても何故タコなのにイカの匂いがするんだろう。さっき口の中に入れられた時、少し飲んじゃったんだけど大丈夫かな?」
瑠奈はその粘液の正体を知る由もなかった。まあ飲んでも毒じゃないけどね。
「きゃっ!見ないで!」
校庭の方を見てみると、生徒たちがポカーンとこっちを見ている。
急いで周囲に散らかっている服を着たが、カーカ星人が引き千切ったので、服はぼろぼろ、粘液でなんとか体に引っ付いているといった感じだ。
「今日が入学式だっていうのに。」
とにかく変身をとかなきゃと一番布が剥がれては困る大事なところを両手で押さえながら飛び上がった。が、そのままうつ伏せの格好で住宅街にスライディングしてしまった。家々は押しつぶされ、瑠奈の体は擦り傷だらけだ。
「いててっ。もおっ、どうやったら飛べるのかしら?やっぱりオーソドックスに手を前にあげないとだめなのかなあ。でも両手ふさがってるし。うーん仕方ない、こうするか」
ビルで体を隠すようにしてしゃがみ、両手を上にあげ軽く飛び上がった。今度は簡単に飛べた。でも瑠奈が心配してたように、しゃがんだ時になんとか張り付いていた大事なところの布が剥がれてしまった。でも瑠奈は飛べた喜びでそんな事には気付かなかった。ビルにいた人は瑠奈の巨大な大事なとこを間近で見てしまった事になる。
「なんだ、飛ぶのは以外と簡単ね。いやっ!わああっ、服がーっ!」
見ると風圧で服が細切れになって次々と飛ばされていく。急いで手で押さえようとすると、今度は墜落しそうになる。
「きゃーっ!もうどうしたらいいの。」
地上では瑠奈の悲鳴が響き、そしてだんだん遠ざかっていった。

***

 変身を解いてトボトボと瓦礫となった校舎の横を通り校庭に帰ってきた。服は元に戻り傷も消え、粘液も匂い共々消えている。
すると校庭のみんなが拍手をしてくれた。まるで凱旋パレードみたいだ。
瑠奈は生徒達に囲まれてしまい、皆口々に言い出した。
「すごいわ!」
えっ!ばれちゃったの。ちょ、ちょっと約束と違うじゃないの!・・・て、いう事は、あられもない姿も見られちゃったってわけ!
「そ、それじゃ私の事ずっと・・・」
瑠奈は傍にいた女の子に話し掛けた。
「もちろんよ!カッコよかったわ。」
あ、あ〜、カモフラージュなんて嘘じゃない。ど、どうしよう全部見られちゃったんだわ・・・。家に帰ってどうやって親に言い訳しよう。でも・・・、地球の危機を救えるのは私しかいないんだわ。そう言えば誰だって納得してくれるはずよ。あられもない姿を見られちゃったのも今回は相手が悪かったんだわ、いつも敵は卑猥なのばかりじゃないんだろうし・・・。
そう思うとだいぶ気が楽になった。本来、瑠奈は目立ちたがり屋なのでこうやってみんなから注目を浴びるのも悪くない。
「ねえ、ところでどこが一番カッコよかった?」
調子に乗って瑠奈が言い出した。
「どこって・・・そう言われてもねえ・・・」
周りにいた生徒達も首をひねりだした。
「え、だってずっと見てたんでしょ、私の事?」
「そうなんだけど・・・、一体何をしてたのか全く記憶にないの。ただすごかったという印象だけが残っていて・・・」
「それじゃ、今までの私の事、全く憶えてないの?」
「そ、そうなの。私にもよくわからないのだけど・・・。そう言われると何がすごいんだろう・・・。」
瑠奈は複雑な心境だった。カモフラージュが効いていたということはあられもない姿は憶えてないという事だ。しかしカッコよく光線で敵を倒したところも憶えてないという事になる。それはがっかりだ・・・でもあの時は全身粘液だらけで全裸だったんだ。という事はやっぱり憶えていなくてよかったんだわ。

 次の日から平常通りに授業が始まった。しかし校舎が破壊されてしまったのでプレハブの臨時校舎だ。奇跡の経済大国とはいえ、高度経済成長期やバブル期にはすぐに修復されたものの、この不況期にはそうもいかないらしい。
「新入早々からプレハブ校舎とは・・・、まあ自業自得だからしょうがないか。トホホ。」

2.『入学式』
−終−

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